暁降ちのころ

暁降ち(あかつきくたち)と読みます。40歳から始めた日常の整理、備忘録などを思うままに好き勝手書いています。

読了 オー!ファーザー

著者 伊坂 幸太郎

みんな、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、六人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母一人、子一人なのはいいとして、父親が四人もいるんだよ。しかも、みんなどこか変わっていて。俺は普通の高校生で、ごく普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて―。

 

~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

鎖骨骨折による手術で入院する際、病室で時間を持て余すだろうと妻が買ってきてくれた本作品。リクエストは「バイバイ、ブラックバード」だったんだけど、本屋に置いてなかったのでその代わりに。だけど、いざ読み始めるとあっという間に引き込まれてしまった。だから伊坂作品って面白い。

 

小説の内容は、父親が4人いるという不思議な家族を描いた物語。主人公の由紀夫を中心に4人の父親が登場。ギャンブル好きの鷹、女好きの青い、博学卓識の悟、スポーツ万能の勲。ちなみに母の知代はこの家族の会話のなかで出てくるのがほとんどで、それが逆に読み手として色んな想像を掻き立てられる。ちなみにこの4人の父親の性格をよく表しているセリフ。巻末にもあるんだけど

鷹「世の中で事故に遭った奴は、みんな事故に遭いたくなかった奴なんだ」
→ドッグレースに熱中しているギャンブラーでチンピラ風の父

葵「政治家になって、法律でも作るんだな。息子面前ナンパ禁止法とかさ」
→長身のイケメンで元ホスト。由紀夫に女性の扱い方を教えるシーンが良く出てくる。

悟「人間は、恥をかくのが苦手なんだ」
→大学教授。由紀夫には勉強を教えている。

勲「十三、四歳のガキを教室に詰め込んで、何も問題が起きなきゃ、その方が問題だ」
→中学校の体育教師でバスケの元選手。由紀夫には喧嘩のコツを教えている。

 

異色な父親たちのなか、唯一まともに見えるのが由紀夫なんだけど、彼は彼でこの4人の父親から様々な影響を受けている。前半はその掛け合いが面白い。

物語が進んでいくのは後半。平穏な日常が、由紀夫の友人の鱒二が引き起こした事件によって一変する。その事件を由紀夫が4人の父親と協力し、真相を解明しようと奮闘するんだけど、最後はやっぱり「お父さん格好いい!」というお話。

 

この小説も、伊坂さんらしい軽妙な会話や伏線の回収が楽しめる作品だった。4人の父親の由紀夫への愛情や家族愛が、物語全体を温かく包んでて、またそれ以外の登場人物も面白い。由紀夫の同級生の多恵子や牛蒡男など、なかなか個性的な面々。物語は様々な事件や出来事が絡み合って展開していくけど、最後にはすべての伏線が見事につながる。伊坂さんの作品にはよくあるパターンだけど、やはりこの快感はたまらない。

 

小説のテーマは、家族や父親というものなのかな。由紀夫は父親が4人いるという特殊な環境に育っているが、それが普通でないということには気づいている。けどそれを不幸に思っているような描写はまったくなく、むしろ読んでいると4人の父親から得られるものを幸せだと感じているように感じた。あと「由紀夫の父親は誰なのか?」というシーンはほぼ出てこない。いや、少しは出てくるんだけど、4人の父親もDNA検査などはする気がなく、皆が由紀夫を自分の子だと信じてる。それは知代と離れたくないという気持ちが強いのかなと思うと、知代がどんな女性なのか気になって仕方ないんだけど、結局出てくるのは最後の最後の、本当に最後。

 

たぶんこの小説が伝えたいのは、血の繋がりよりも心の繋がりや愛情が大切だということ。それを4人の父親を通して、楽しく、面白く、高校生という思春期の息子とのやりとりを(同じ父親目線で見ると)可愛く描写しながら表現してくれている。

本作品、2010年の作品だから13年前か。なぜ今まで読んでなかったんだろうというくらい好きな作品のひとつになった。ちなみに岡田将生さん主演で映画化もしてるというのをWikipediaで知ったんだけど、この内容を映像でどう表現してるんだろう?気になるけど見るとこの小説でイメージした俺のなかの雰囲気が壊れてしまわないか不安。。。

 

ありがとうございました。