暁降のころ―映画と読書のジャーナル―

暁降(あかときくたち)と読みます。もっぱら映画と小説の感想がメインです。

鑑了 クライム101

  • (監督) バート・レイトン
  • (出演) クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、バリー・コーガン、モニカ・バルバロ、コーリー・ホーキンズ、ジェニファー・ジェイソン・リー、ニック・ノルティ他
  • (上映日) 2026年2月13日
  • (上映時間) 140分

crime101.jp

以下、あらすじ。(参照 Filmarks

悪者しか狙わない、殺さない、痕跡は一切残さない――独自のルールに従い【完全犯罪】を行うデーヴィスと 【姿なき犯罪者】の手がかりを追う刑事ルー。名作『ヒート』に続く、L.A.を舞台にしたクライムアクション・スリラーの傑作誕生!アメリカ西海岸線を走るハイウェー<101>号線上で、数百万ドルの宝石が消える強盗事件が多発。4年間にも及ぶデーヴィスの犯行は一切のミスがなく完璧だったが、人生最大の大金を得るために高額商品を扱う保険会社に勤めるシャロンに接触し、共謀を持ちかけたことから思わぬ綻びを見せ始める。1100万ドル(約16億円)の宝石をターゲットに、シャロンとの裏取引は成功したかのように見えたが、犯罪組織からの追跡や警察内部の陰謀、そしてルー刑事の執拗な捜査網にそれぞれの思惑が絡み合い、デーヴィスの完璧だった犯罪計画とルールが崩れていく――。

youtu.be

バート・レイトン監督が手掛けたAmazonオリジナル映画『クライム101』。派手な宣伝文句に誘われて鑑賞してみたが、Amazonプライムでの評判通り、一気に観進めてしまうだけの推進力を持ったクライム・サスペンスだった。

 

【俺の評価】
⭐⭐⭐(星3つ)

 

物語は、太平洋沿岸で発生している宝石強奪事件を追う刑事と、独自の「101ルール」を遵守して完璧な犯行を繰り返す強盗犯の攻防を描いている。アクション映画という触れ込みではあるが、肉弾戦の格闘シーンやド派手なガンアクションはほとんど登場しない。むしろ、犯人と刑事の知略のぶつかり合いを、抑制の効いたトーンで淡々と、しかし緊張感を途切れさせずに描き出していく演出が印象的だ。

出演されている俳優陣については、失礼ながら存じ上げない方ばかりだった。しかし、それがかえって功を奏したのか、先入観なしにキャラクターたちの一挙手一投足に集中することができた。特に、ストイックにルールを守り抜こうとする犯人側の冷徹な佇まいと、それを執拗に追う刑事側の泥臭い執念。俳優さんたちの確かな演技力が、この静かな物語に深い説得力を与えていた。

バート・レイトン監督の視点は非常にドライで、犯罪の美学を語るというよりは、プロフェッショナル同士が対峙した際に生じる火花のようなものを、緻密な構成で積み上げていく。アクションの快感よりも、パズルが組み上がっていくような知的興奮を求める人にとっては、この「淡々とした進展」こそが最大の魅力になるだろう。

ただ、個人的な感想を言わせてもらうなら、物語のピークに向けてもう一段階、心臓を鷲掴みにされるような「爆発力」や、予想を裏切る大きな衝撃が欲しかったというのが正直なところだ。全体として非常に高いレベルでまとまっている優等生的な作品だが、鑑賞後に一生忘れられないほどの傷跡を残すまでには至らなかった。

とはいえ、週末の夜にAmazonプライムで良質なサスペンスに浸りたいという時には、これ以上ないほど「ちょうどいい」一本だ。派手な爆発音に頼らず、ストーリーの力だけで観客を惹きつけるバート・レイトン監督の手腕は、一見の価値がある。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 ひまわりDays 全身が性感帯

  • (監督) 山内大輔さん
  • (出演) 涼川絢音さん、月本愛さん、黒木歩さん、加山なつこさん、櫻井拓也さん、川瀬陽太さん、森羅万象さん
  • (製作) 2018年
  • (上映時間) 85分

eiga.com

以下、あらすじ。(参照 Filmarks

<スナックひまわり>で働く孤児院育ちのミカヨと知り合ったカズオは、その天真爛漫な性格にいつしか心惹かれ…。<スナックひまわり>で働く孤児院育ちのミカヨと知り合ったカズオは、その天真爛漫な性格にいつしか心惹かれ…。

youtu.be

山内大輔監督が手掛けた『ひまわりDays 全身が性感帯』。タイトルこそ刺激的で、いわゆる「ロマンスポルノ」の枠組みではあるが、鑑賞後の余韻は驚くほど純粋な「愛の物語」であった。

 

【俺の評価】
⭐⭐(星2つ)

 

物語は、婚約者に浮気され職も失った青年と、たまたま入ったバーで出会った知的障害の女の子との交流を軸に展開する。巷で「泣けるロマンスポルノ」と評されている通り、単なるエロティシズムの追求に留まらず、人と人が触れ合い、心を通わせていく過程が非常に丁寧に描かれている。山内大輔監督の演出は、官能的なシーンであってもどこか切なさを纏わせており、ストーリー構成もしっかりと一本の芯が通っていた。

出演されている俳優陣の演技も、非常に見応えがあった。特に主演の涼川絢音さんが見せる、献身的な愛と、その裏側にある葛藤や孤独。それらを体当たりで演じきった彼女の表現力は、この映画を単なる成人向け作品から、胸を打つ人間ドラマへと昇華させている。性的な描写が、記号的なものではなく「心の重なり」を表現するための必然として機能している点には、制作者側の誠実さを感じた。

ただ、どれほどストーリーや演技が優れていても、やはりジャンルの特性上、鑑賞する側にはある種の「構え」が必要になる。物語の良さを素直に受け取りつつも、映画としての総合的な満足度や、他人に勧める際のリテラシーを考えると、俺の中では星2つという評価に落ち着いた。

もちろん、この「切なさ」や「純愛」の要素が、今の自分の環境や人生観にピタリとハマる人であれば、もっと高いスコアを付けるだろう。40代という、人生の酸いも甘いも知った世代から観れば、こうした剥き出しの感情のぶつかり合いは、どこか懐かしく、そして少しだけ眩しく映る。

Amazonプライムの深いライブラリの中で、ただの刺激ではなく、心のどこかに触れるような「物語」を探しているなら、一度覗いてみても損はない一作だ。タイトルに惑わされず、その奥にある「ひまわり」のようなひたむきな愛を感じ取ってみてほしい。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 月下香

  • (監督) 淵澤由樹さん
  • (出演) 清瀬汐希さん、松井健太さん、中西悠綺さん、関口まなとさん、風祭ゆきさん、阿部祐二さん、木村祐一さん他
  • (上映日) 2022年10月28日
  • (上映時間) 87分

eiga.com

以下、あらすじ。(参照 Filmarks

化粧品メーカーに勤める田中亜美は、誠実で優しい夫と平穏な結婚生活を送っていた。ある日、仕事上のトラブルから年下の若き画家・柏木潤と出会う。軽い気持ちで絵画モデルを引き受ける亜美だったが、次第に2人は強く惹かれ合っていく。そんな中、人気アーティストの階段を駆け上がっていく潤。亜美は罪悪感を抱きつつも、潤への想いを抑えられなくなっていく。その許されぬ恋の果てに辿り着いた結末は?切なくも官能的な禁断のラブ・ストーリー。

youtu.be

淵澤由樹監督が、大人の純愛と情愛を独自の感性で描き出した『月下香』。タイトルにある「月下香(チューベローズ)」の花言葉のように、夜に募る狂おしいほどの想いを映像化した一作だが、観終わった後の正直な感想としては、少しばかり物語の奥行きに物足りなさを感じてしまった。

 

【俺の評価】
⭐⭐(星2つ)

 

物語は、運命的な出会いを果たした男女が、許されぬ恋に身を投じていく様を追う。主演を務めた清瀬汐希さんは、その圧倒的なビジュアルの美しさが際立っており、画面に映るたびに「綺麗な人だな」という強い印象を観客に植え付ける。彼女の佇まいには、この映画が目指したであろう「お洒落で都会的な大人の色香」が確かに宿っていた。もし彼女の他の出演作があるのなら、また別のキャラクターをどう演じ分けるのか、ぜひ観てみたいと思わせる魅力がある。

しかし、肝心のストーリー展開については、設定のドラマチックさに反して、どこか描写が表層的で「薄い」と感じてしまったのが本音だ。二人の感情がなぜそこまで深く結びついたのか、その心の機微や葛藤がもう少し丁寧に掘り下げられていれば、ラストに向けてのカタルシスも変わっていたのではないか。

また、冒頭に出演されていた木村祐一さんの演技についても、個人的には複雑な心境になった。木村祐一さんは非常に真面目に、かつ丁寧に役に向き合って標準語で演じられていた。だが、関西に住み、長年彼の芸人としてのキャラクターや「喋り」に親しんできた身としては、その標準語のセリフ回しにどうしても「こそばゆい」感覚を覚えてしまったのだ。俳優さんとしての挑戦は素晴らしいのだが、染み付いたイメージが邪魔をして、物語に没入しきれなかったのは残念な点である。

映像のトーンや音楽の使い方はタイトル通りお洒落にまとめられており、深夜に一人で静かに眺めるには適しているかもしれない。だが、一人の映画ファンとして、血の通った濃密な人間ドラマを期待して観てしまうと、どうしても肩透かしを食らったような感覚が残る。

Amazonプライムで、清瀬汐希さんの美しさを堪能するという目的であれば、十分に価値のある一本だろう。しかし、作品全体の完成度としては、もう一歩踏み込んだ「毒」や「深み」が欲しかったというのが正直なところだ。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 ソング・トゥ・ソング

  • (監督) テレンス・マリック
  • (出演) ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェット、ヴァル・キルマー、ホリー・ハンター他
  • (上映日) 2020年12月25日
  • (上映時間) 128分

www.kingrecords.co.jp

以下、あらすじ。(参照 Filmarks

音楽の街、オースティン。何者かになりたいフリーターのフェイ(ルーニー・マーラ)は、成功した大物プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)と密かに付き合っていた。そんなフェイに売れないソングライターBV(ライアン・ゴズリング)が想いを寄せる。一方、恋愛をゲームのように楽しむクックは夢を諦めたウェイトレスのロンダ(ナタリー・ポートマン)を誘惑。愛と裏切りが交差するなか、思いもよらない運命が4人を待ち受けていた…。

youtu.be

テレンス・マリック監督が、音楽の街オースティンを舞台に豪華キャストを配して描き出した『ソング・トゥ・ソング』。ライアン・ゴズリング、ルーニー・マーラ、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマンといった、これ以上ないほど贅沢な俳優陣が集結しているのだが、その仕上がりは極めて独創的であり、観る者を激しく選ぶ一作だ。

 

【俺の評価】
⭐(星1つ)

 

物語は、音楽業界で成功を夢見る二人の男女と、彼らを取り巻く人々との愛執、裏切り、そして再生を描いている……はずなのだが、正直に言わせてもらうと、そのストーリーの輪郭を掴むことすら困難だった。全編を通して、まるで夢の中にいるようなスピリチュアルな雰囲気が漂い、ささやくようなモノローグが重なる。映像の一コマ一コマは息を呑むほど美しく、テレンス・マリック監督らしい芸術的な完成度は感じるのだが、肝心の内容が全く頭に入ってこない。

俺は普段、一度に観終えることができなくても、2〜3日あれば最後まで辿り着けるタイプなのだが、この作品に関しては別だった。あまりの退屈さに、最後まで観るのがこれほど苦痛に感じたことは珍しい。時間の流れが止まってしまったかのような感覚に陥り、完走するまでにかなりの時間を要してしまった。

美しい映像の断片を繋ぎ合わせた「雰囲気映画」としては、あるいは高く評価する層もいるのだろう。しかし、映画に物語としての推進力や、登場人物への共感、そして何より「次はどうなるんだ?」というワクワク感を求めてしまう俺にとっては、残念ながら一ミリも刺さるポイントがなかった。

出演されている俳優さんたちの、どこか虚空を見つめるような物憂げな表情や、即興劇のようなやり取り。それらは確かに「美学」ではあるかもしれない。だが、それらが積み重なっても、一つの「物語」として心に響いてこないのだ。40代という現実の荒波を生きている身としては、この高尚すぎる「愛の迷走」に付き合うには、あまりにも人生の貴重な時間を浪費しているような気分にさえなってしまった。

Amazonプライムの膨大なライブラリの中で、極限まで抽象化された映像詩に身を委ねたいという稀有な瞬間には、あるいは適しているのかもしれない。だが、俺の個人的な映画体験としては、途方に暮れるばかりの星一つである。この独特なリズムに乗り切れるか、それとも俺のように置き去りにされるか。まさに観る者の感性を試すような、ある意味で恐ろしい一本だと言える。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 7月4日に生まれて

  • (監督) オリヴァー・ストーン
  • (出演) トム・クルーズ、レイモンド・J・バリー、キャロライン・カヴァ、キーラ・セジウィック、フランク・ホエーリー、ジェリー・レヴィン、ウィレム・デフォー他
  • (上映日) 1990年2月17日
  • (上映時間) 145分

www.thecinema.jp

以下、あらすじ。(参照 Filmarks

アメリカの独立記念日に生を受けたロン・コービックは、高校卒業後、愛国心と希望を胸に海兵隊へ入隊しベトナムへと旅立つ。だが、戦場でロンは部下を撃ち殺してしまい、自身も下半身不随となる。その後、故郷に帰ったロンを待っていたのは反戦運動で…。

youtu.be

オリヴァー・ストーン監督が、自身のベトナム従軍経験を投影するように作り上げた渾身の一作『7月4日に生まれて』。トム・クルーズがこれまでの爽やかなスター像を脱ぎ捨て、魂を削るような熱演を見せたことで知られる不朽の名作である。

 

【俺の評価】
⭐⭐⭐⭐(星4つ)

 

物語は、アメリカの独立記念日(7月4日)に生まれた青年ロン・コーヴィック(トム・クルーズ)の激動の半生を追う。熱烈な愛国心を持ってベトナム戦争に志願した彼が、戦地で悪夢のような現実を目の当たりにし、下半身不随となって帰還するところから、この映画の真の「戦争」が始まる。

ベトナム戦争をテーマにした映画は数多くあるが、本作が特筆すべきなのは、戦場そのものの悲惨さ以上に、帰還した兵士が自国内で直面する「心の戦場」を冷徹に描き出している点だ。英雄として称えられるはずが、反戦ムードが高まる社会で冷遇され、家族とも衝突し、自分自身の身体とアイデンティティを喪失していく。なるほど、こういう視点から戦争を問い直すのかと、深く考えさせられた。

主演のトム・クルーズの演技は、まさに「脱皮」と言える凄みがある。車椅子に揺られながら、怒りと絶望に震え、やがて反戦運動へと身を投じていくロンの変遷。その眼差しに宿る熱量は、観ているこちらの胸を突き刺す。彼が演じたからこそ、この過酷な人生ドラマに、ある種の気高さと説得力が宿ったのだろう。

単なる政治的なプロパガンダ映画ではなく、一人の男が「国家」という幻想に裏切られ、そこからいかにして自分自身の声を取り戻していくかという、骨太な人間ドラマとして完成されている。オリヴァー・ストーン監督の演出は容赦がなく、観る者に強い痛みを強いるが、それゆえにラストシーンで彼が見出す微かな希望が、より一層重みを増して響いてくる。

戦争という巨大なうねりの中で、個人の人生がいかに翻弄され、そして再生していくのか。今この時代にこそ、Amazonプライムでじっくりと鑑賞すべき価値のある一作だ。星4つという評価は、その圧倒的な熱量と、時代を超えて色褪せないメッセージに対する敬意である。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 関心領域

  • (監督) ジョナサン・グレイザー
  • (出演) クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー、ラルフ・ハーフォース、マックス・ベック他
  • (上映日) 2024年5月24日
  • (上映時間) 105分

happinet-phantom.com

以下、あらすじ。(参照 Filmarks

空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から黒い煙があがっている。時は 1945 年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)ら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わす何気ない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?そして、あなたと彼らとの違いは?

youtu.be

ジョナサン・グレイザー監督が手掛けた『関心領域』。第96回アカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞を受賞した本作は、これまでのナチスやホロコーストを扱った映画とは一線を画す、極めて異質で恐ろしい体験を観客に突きつける。

 

【俺の評価】

⭐⭐⭐(星3つ)

 

物語の舞台は、アウシュビッツ強制収容所に隣接する家。そこで暮らすのは、収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘドヴィグ(ザンドラ・ヒュラー)の一家だ。彼らは壁一枚隔てた向こう側で起きている惨劇を完全に無視し、美しい庭を世話し、プールで遊び、理想的な「幸福な家庭」を築いている。

驚くべきは、劇中で収容所内部の凄惨な映像が一切直接的には描かれないことだ。しかし、常に背景に流れる不気味な重低音、夜の闇に赤く燃える煙突の火、そして風に乗って聞こえてくる叫び声や銃声。それら断片的な「音」や「気配」が、観ている側の想像力を執拗に刺激する。「怖いシーンはひとつもないのに、どうしようもなく怖い」という多くのレビューがあるが、まさにその通りだ。平穏な日常のすぐ隣に地獄があるという異常性が、淡々と、しかし冷徹に描かれている。

タイトルにもある「関心領域」という言葉。これは当時のナチスが収容所周辺のエリアを指して使った言葉だが、現代を生きる我々に対しても「お前の関心領域はどこにあるのか?」と鋭く問いかけてくる。自分の生活の幸せさえ守れれば、壁の向こう側の悲劇には無関心でいられるのか。その無関心こそが最大の罪ではないのか。観賞後、自分の内面を覗き込まされるような、非常に居心地の悪い余韻が残る。

出演されているザンドラ・ヒュラーさんの、生活感に溢れつつもどこか人間性が欠落したような妻役の演技は、見事というほかない。彼女の徹底した「無関心」が、この映画の恐怖を完成させている。

個人的な評価として星3つとしたのは、その芸術性とメッセージ性の高さは認めつつも、映画としてのエンターテインメント性や救いを求める人にとっては、あまりにも冷たく、突き放されたような感覚が強いからだ。これは「楽しむ」ための映画ではなく、「目撃し、思考する」ための装置と言えるだろう。

Amazonプライムでこの作品を観る際は、ぜひ音響の良い環境で、あるいはヘッドホンをつけて鑑賞してほしい。壁の向こう側から漏れ聞こえる「音」が、あなたの日常を静かに侵食していく恐怖を、ぜひ体感してほしい。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 ファーストキス 1ST KISS

  • (監督) 塚原あゆ子さん
  • (出演) 松たか子さん、松村北斗さん、吉岡里帆さん、森七菜さん、リリー・フランキーさん他
  • (上映日) 2025年2月7日
  • (上映時間) 124分

1stkiss-movie.toho.co.jp

以下、あらすじ。(参照 Filmarks

結婚して十五年目、事故で夫が死んだ。 夫とは長く倦怠期で、不仲なままだった。 残された妻は第二の人生を歩もうとしていた矢先、タイムトラベルする術を手に入れる。 戻った過去には、彼女と出会う直前の夫の姿があった。 出会った頃の若き日の夫を見て、彼女は思う。 わたしはやっぱりこの人のことが好きだった。 夫に再会した彼女はもう一度彼と恋に落ちる。 そして思う。十五年後、事故死してしまう彼を救わなくてはー。 「夫婦とは?」「家族とは?」「愛する人と歩む人生とは?」 人生で誰もが直面する、答えのない深くてシンプルな疑問。 この物語は、それらの意味を問いかける心揺さぶるラブストーリー。

youtu.be

塚原あゆ子監督がメガホンを執り、坂元裕二さんが脚本を手掛けた『ファーストキス 1ST KISS』。この黄金コンビが「タイムリープ」という王道のギミックを使いながら、単なる若者の恋物語に留まらない、深みのある「夫婦の物語」を書き上げた。

 

【俺の評価】
⭐⭐⭐⭐(星4つ)

 

物語は、結婚15年目を迎え、事故で夫を亡くしたカンナ(松たか子さん)が、タイムトラベルをして若かりし頃の夫・駆(松村北斗さん)に出会うところから動き出す。タイムリープものといえば「過去を変える」という展開が一般的だが、今作が描くのは、もっと切実で、どこか救いようのないほど純粋な「愛の再確認」だ。

正直なところ、結婚生活が長くなれば、初対面の頃のような新鮮さは失われていく。我が家も結婚18年目。倦怠感と言われれば否定できない、そんな日常を積み重ねている現在の状況があるからこそ、劇中の夫婦の姿を自分たちのことのように投影せずにはいられなかった。過去に戻り、まだ自分を知らない若き日の夫と向き合うシーン。あの頃の眩しさと、現在の喪失感が交錯する描写には、胸を締め付けられるような切なさがあった。

主演の松たか子さんの演技は、やはり流石の一言に尽きる。失意の底にいる現在と、過去で揺れ動く感情の機微を、圧倒的な説得力で表現していた。また、松村北斗さんの役柄も非常にハマっていた。若さゆえの危うさと、どこか放っておけない愛嬌を持つ駆というキャラクターを、彼自身の持つ透明感で見事に体現している。

この映画が真にターゲットとしているのは、おそらく我々のような、ある程度人生の経験を積み、パートナーとの「当たり前の日常」に慣れてしまった世代なのだろう。若さだけで突っ走る恋ではなく、積み重ねてきた時間の重みを知っているからこそ、あの「ファーストキス」に込められた意味が痛いほど伝わってくる。

王道のキラキラしたラブストーリーを期待すると、その静かな余韻に驚くかもしれない。だが、長年連れ添った相手がいる人や、かつての情熱を懐かしく思う人にとっては、Amazonプライムの画面越しに、自分の人生を優しく抱きしめてもらえるような、そんな温かくも切ない体験になるはずだ。

今の自分の隣にいる人の存在が、少しだけ愛おしくなる。そんな魔法にかかりたい夜には、最高の選択肢と言えるだろう。

ありがとうございました。