暁降のころ―映画と読書のジャーナル―

暁降(あかときくたち)と読みます。もっぱら映画と小説の感想がメインです。

鑑了 欲しがり奈々ちゃん ひとくち、ちょうだい

  • (監督) 城定秀夫さん
  • (出演) 架乃ゆらさん、守屋文雄さん、稲盛誠さん、吉永塔子さん、宮川翼さん、山本宗介さん、橘寿梨愛さん、首藤凛さん他
  • (上映日) 2021年10月2日
  • (上映時間) 70分

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以下、あらすじ。(参照 映画.com

「アルプススタンドのはしの方」や「性の劇薬」など幅広い作風で近年評価の高まる城定秀夫監督が手がけたオリジナルビデオ作品。小さなころから他人が食べているモノや持っているモノが素敵に見てしまう奈々。大人になったいまも相変わらずな彼女は、「真剣に誰かを大事にしている男性」がどうしても魅力的に見えてしまい……。オムニバス映画「21世紀の女の子」に参加したほか、綿矢りさ原作「ひらいて」でメガホンをとるなど活躍の場の広がる若手監督の首藤凜が脚本を担当。主演は「恋の墓」などに出演した架乃ゆら。本来はレンタルや配信を目的に制作されたエロス系のビデオ作品だったが、2020年6月に開催された特集上映「梅雨の城定祭り」で好評を得て、21年10月に劇場公開。

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城定秀夫監督が2021年に手掛けた『欲しがり奈々ちゃん ひとくち、ちょうだい』。ピンク映画やVシネマ、商業映画と幅広いジャンルで圧倒的な打率を誇る城定秀夫監督らしく、ジャンルの特性を最大限に活かしながらも、一本の「映画」として確かな見応えを感じさせてくれる一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐⭐(星4つ)

 

本作は、架乃ゆらさんや吉永塔子さんといった豪華なキャスト陣を迎え、いわゆるセクシービデオ的な過激なシーンが多分に盛り込まれていることは確かです。視覚的な刺激の強さやその描写の容赦なさ、バリエーションの豊富さは、このジャンルに期待される要素を十二分に満たしています。

しかし、こうした特化型の映画にありがちな「エロ要素を際立たせるためにストーリーが形骸化している」「お話が薄くて中身がない」という定番の弱点を見事に覆してくれるのが、本作の最も面白いところです。実際に蓋を開けてみると、単なる刺激の連続に留まらず、人間の独占欲や満たされない心の渇き、関係性の変化といった内面的なドラマが丁寧に描かれており、想像以上に深く、芯のある物語に仕上がっていたのが正直な感想です。

過激なシーンの数々も、ただ観客の目を引くためだけのものではなく、登場人物たちの歪んだ感情や剥き出しの心理を表現するための必然的な演出として機能しています。キャストの皆さんの体当たりの熱演と、城定秀夫監督の確かな手腕によって、ジャンルの枠を飛び越えたヒューマンドラマとしての満足感を得ることができました。

Amazonプライムのライブラリの中でも、その過激なビジュアルから一見すると敬遠しがち、あるいは割り切った見方をしてしまいそうな作品ですが、映画としてのクオリティの高さに思わず唸らされる、星4つにふさわしい隠れた良作でした。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 集まった人たち

  • (監督) いまおかしんじさん
  • (出演) 新山志保さん、松永祐樹さん、鈴木将一朗さん、重田裕友樹さん他
  • (上映日) 2013年4月3日
  • (上映時間) 62分

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以下、あらすじ。(参照 映画.com

山本政志監督プロデュースによる実践映画塾「シネマ☆インパクト」の第3弾で製作された5作品の1つ。「UNDERWATER LOVE おんなの河童」「白昼夢」のいまおかしんじ監督が、セックスをしたくてもうまくできない人々が右往左往する姿を描く。「シネマ☆インパクト」第3弾のBプログラム(「止まらない晴れ」「集まった人たち」)で上映。

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いまおかしんじ監督が2013年に手掛けた、映画監督と俳優のワークショップから映画を産み出すプロジェクト「シネマ☆インパクト」の第3弾として製作された作品『集まった人たち』。62分という非常にコンパクトな上映時間でありながら、その中身は観客の理解の範疇を遥かに超えた、ある意味で強烈なインパクトを残す一作でした。

 

【俺の評価】⭐(星1つ)

 

本作は、限られた時間と空間の中で文字通り「集まった人たち」が織りなす人間模様を描いているのですが、ストーリーの脈絡や登場人物たちの行動原理が終始掴みきれず、残念ながら何を伝えたいのかという意味が全く分からないまま物語が進行していきます。62分という短尺であれば、通常なら退屈さを感じる前に観終わるはずですが、展開に感情が一切乗っていかないため、体感時間はその何倍にも感じられるほど、想像以上に退屈な時間を強いられる結果となってしまいました。

そして何より、劇的な混乱に拍車をかけるのがそのエンディングです。それまでの意味不明さを全て置き去りにするような、まさに「とんでもない内容」で幕を閉じるため、カタルシスや納得感を得るどころか、ただただ呆然と画面を見つめるしかありませんでした。

しかし、こうした突き抜けた不条理さや実験的な試みも、インディーズ映画ならではのエネルギーの形なのかもしれません。世の中にはこれほどまでに理解を拒む、一風変わった映画が存在するのだという、映画という表現媒体の持つ「底知れない多様性」と「懐の深さ」を、身をもって教えてくれるという意味では非常に貴重な鑑賞体験でした。

Amazonプライムの広大なライブラリを探索していると、時としてこうした理解の追いつかない未知の領域に迷い込むことがありますが、本作はその中でも「映画の多様性」を強く実感させてくれる、星1つにふさわしい、記憶に深く刻まれる迷作(あるいは怪作)でした。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 僕の一番好きだった人

  • (監督) 上村奈帆さん
  • (出演) 平野鈴さん、長谷川葉生さん
  • (上映日) 2022年4月30日
  • (上映時間) 44分

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以下、あらすじ。(参照 映画.com

「書くが、まま」の上村奈帆監督が、人里離れた日本家屋で出会い、ひかれあった2人の人間の心模様を繊細に描いた中編作品。ある夜、入水自殺を図った悠。しかし、結局死ぬことを思いとどまり、陸にあがってくる。その様子を目撃していた叶絵は、悠に恋をする。叶絵は悠をモデルに絵を描き、心と体が溶け合う2人きりの時間は永遠に続くように思われたが……。主演は、濱口竜介監督の「親密さ」で主演を務めた平野鈴と、上村監督の「書くが、まま」にも出演した長谷川葉生。

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上村奈帆監督が2022年に手掛けた、44分という引き締まった尺の中に一筋縄ではいかない叙情を込めた短編映画『僕の一番好きだった人』。出演者も平野鈴さんと長谷川葉生さんの二人のみという、極限まで無駄を削ぎ落としたとてもシンプルな構成だからこそ、画面から漂う空気感がダイレクトに伝わってくる一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐(星3つ)

 

本作の大きな魅力は、どこか懐かしさを覚えさせる日本の原風景のような佇まいにあります。少し年季の入った田舎っぽい佇まいの家屋、静かな夜にパチパチと火花を散らす線香花火……。それらの丁寧な描写が醸し出すノスタルジックで美しい雰囲気は非常に心地よく、観る者をどこか遠い記憶の底へといざなうような魅力に満ちていました。

しかし、その情緒的な映像美の一方で、ストーリーが一体何を伝えたかったのかという核心部分については、初見ではなかなか理解が追いつかない難解さを持っています。劇中では彼女たちのセクシャリティに関する具体的な説明はほとんどなされず、二人がこれまでどんな時間を積み重ねてきたのか、そして今どういう関係性にあるのかというディテールも謎に包まれたまま物語が進行します。

この明確な答えを提示しない不親切さは、ある意味で「行間はすべて観る人の感性に委ねられている」ということなのかもしれません。説明過多な現代の映画とは対照的に、あえて多くを語らないことで、観客自身が二人の沈黙や眼差しから何かを汲み取ることを求められている。そんな、一度観ただけで完結するのではなく、二度、三度と繰り返し鑑賞し、散りばめられた断片を拾い集めながら、自分なりの解釈をゆっくりと組み立てていくことで、ようやく真価を発揮するタイプの作品なのだと感じました。

Amazonプライムのライブラリの中で、ふと見つけたこの44分間の静かな対話。物語としての明確な着地点や分かりやすいドラマを求めると戸惑うかもしれませんが、映画が残した空白にじっくりと思いを巡らせ、自分だけの答えを探してみたくなるような、星3つにふさわしい不思議な余韻を残す短編でした。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 Sappy

  • (監督) 上田修生さん
  • (出演) 猪征大さん、結城あすまさん、川上明莉さん、犬童みるさん、土屋士さん、藤田晃輔さん、橘舞衣さん他
  • (上映日) 2025年5月9日
  • (上映時間) 93分

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以下、あらすじ。(参照 Filmarks

風俗嬢を乗せた送迎車が、夜の東京を走っている。運転手である《主人公》(猪征大)は、車窓を流れる自分以外の人間を「連中」と呼んで見下している。自分は彼らとは違う。なぜなら、小説を書いているから……。交際相手からは才能を否定され、フラれてしまう。出版社からもまるで相手にされない。唯一「連中」とは違うと思っている風俗嬢(川上明莉)との交流が、《主人公》を尚も小説執筆に向かわせる。ある日、執筆場所の一つにしているカフェで、旧友・小林(結城あすま)と再会する。小林は、新作が芥川賞候補にもなる売れっ子小説家である。最初は再会を喜べなかった《主人公》だが、小林に助言を求め、導かれるようになる。常に刺激を求める型破りな性格の小林から、さらにる“計画”を提案される。風俗嬢とともに計画を実行しようとする《主人公》の現実と妄想が入り乱れる……。

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上田修生監督が2025年に世に送り出した『Sappy』。現実と妄想の境界線をあえて曖昧に融解させ、観客を奇妙な白昼夢へと誘うような、非常に独特で不思議な感覚を味わわせてくれる一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐(星2つ)

 

本作の最大の特徴は、何と言ってもその一筋縄ではいかない多層的なストーリーテリングにあります。目の前で起きている出来事が果たして冷徹な「現実」なのか、それとも誰かの切ない「妄想」なのか。その境目がグラデーションのように混ざり合っていく展開は、観る者に心地よい混乱をもたらします。さらに、その世界を彩るお洒落な映像トーンや、登場人物たちの間で交わされるどこか詩的でウィットに富んだセリフの応酬はテンポが良く、耳や目を楽しませてくれる心地よさが確かにありました。

しかし、その非常に個性的でスタイリッシュな世界観であるがゆえに、映画の呼吸を掴んで作品の奥深くへと入り込むまでには、それなりの時間を要してしまったのも正直なところです。説明的な描写を極限まで削ぎ落とし、感覚的に構築された迷宮のような構成は、最初のうちはどこに感情の足場を置いていいのか戸惑ってしまい、物語のコアにシンクロするまでに少し距離を感じてしまいました。

ただ、観終わった後にその余韻を反芻してみると、本作は決して「一回観てすべてを理解する」類のものではないのだという気もしてきます。劇中に散りばめられた不条理なディテールや、一度聴いただけでは掴みきれないセリフの裏に隠されたニュアンスなど、スルメのように「観れば観るほど、噛めば噛むほど味が出る」タイプの作品なのではないでしょうか。二度、三度と繰り返し鑑賞することで、初見では見落としていた現実と妄想の繋ぎ目がクリアになり、評価がまた変わってくる可能性を秘めたスルメ映画と言えます。

Amazonプライムの画面越しでも、その尖ったセンスと映像美はスタイリッシュに伝わってきますが、初見での没入度の難しさを踏まえ、現時点での個人的な満足度としては星2つという落ち着きどころになりました。万人受けする作品ではありませんが、映画という表現が持つ「不条理な浮遊感」をじっくりと味わいたい映画通にとっては、深く探求したくなるような中毒性のある一本かもしれません。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 光る川

  • (監督) 金子雅和さん
  • (出演) 華村あすかさん、葵揚さん、有山実俊さん、足立智充さん、山田キヌヲさん、高橋雄祐さん、松岡龍平さん他
  • (上映日) 2025年3月22日
  • (上映時間) 108分

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以下、あらすじ。(参照 Filmarks

高度経済成⻑の始まった1958年。大きな川の上流、山間の集落で暮らす少年ユウチャ。父は林業に従事し、母は病に臥せていて、老いた祖母と暮らしている。まだ自然豊かな土地ではあるが、森林伐採の影響もあるのか、家族は年々深刻化していく台風による洪水の被害に脅かされている。夏休みの終わり、集落に紙芝居屋がやってきて子どもたちを集める。その演目は、土地にずっと伝わる里の娘・お葉と山の⺠である木地屋の⻘年・朔の悲恋。叶わぬ想いに打ちひしがれたお葉は山奥の淵に入水、それからというもの彼女の涙が溢れかえるように数十年に一度、恐ろしい洪水が起きるという。紙芝居の物語との不思議なシンクロを体験したユウチャは、現実でも家族を脅かす洪水を防ぎ、さらには哀しみに囚われたままのお葉の魂を解放したいと願い、古くからの言い伝えに従って川をさかのぼり、山奥の淵へ向かう・・・

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金子雅和監督が、自然の持つ圧倒的な生命力と人間の静かな営みをファインダーに収めた『光る川』。本作はLINEのオープンチャットという現代的なコミュニティで教えてもらったことがきっかけで鑑賞に至ったのですが、劇中に広がる世界は、デジタルな喧騒とは対極にある、どこまでも純粋で神秘的な空間でした。本作を鑑賞する上で最も重要な前提となるのが、全編を通して「CGを一切使わずに撮影されている」という点です。今の時代、どんなに美しい自然の風景であっても、どこかで視覚効果による補正を疑ってしまいがちですが、本作に映し出される景色はすべて、この地球上に実在する本物の光と影だけで構成されています。それを念頭に置いて画面と対峙した瞬間、スクリーンから溢れ出るような自然豊かな画面描写に、一瞬で心を奪われてしまいました。どこまでも深く鮮やかな山々の緑と、生き物のように姿を変える川の半透明な美しい水色のグラデーションは、ただそれだけで観る者を圧倒し、その色彩の美しさに終始魅了されっぱなしでした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐(星3つ)

 

物語の展開自体は、劇的な事件が次々と起こるようなハリウッド的なエンターテインメントではなく、非常に静かで落ち着いたテンポで進んでいきます。そのため、この作品はプロットの整合性や複雑な伏線回収を追うような「頭で観る映画」ではなく、五感を研ぎ澄ませて光や水の揺らぎをそのまま受け止める「目で観る映画」なのだと強く実感させられました。ただじっと画面を見つめ、大自然の呼吸に自分の呼吸を合わせていくような、贅沢で瞑想的な時間がそこには流れています。

そして、その圧倒的な大自然の美しさに負けないほどの強烈な存在感を放っていたのが、お葉を演じた華村あすかさんです。彼女の佇まいは言葉を失うほどお綺麗で、瑞々しい自然の風景の中に文字通り溶け込んでいました。「透明感溢れる方」という言葉は、まさに彼女のような女優さんのためにあるのではないかと思わされるほど、その清廉な魅力が画面全体を優しく支配しています。彼女の存在自体が、CGを使わないこの映画の「もう一つの奇跡」のようにすら感じられました。

Amazonプライムの画面越しであっても、人工物では決して作り出せない本物の自然の色彩と、華村あすかさんの息を呑むような美しさは鮮烈に伝わってきます。物語としての大きな盛り上がりやカタルシスを期待すると少し物足りなさを感じるかもしれませんが、日常の慌ただしさから離れ、美しい映像のシャワーを浴びて心をデトックスしたい時には、これ以上ない選択になるはずです。自然と人間が織りなす一瞬の輝きを目に焼き付ける、星3つにふさわしい、心安らぐ静謐な鑑賞体験でした。

ありがとうございました。

 

光る川

光る川

  • 華村あすか
Amazon

   

鑑了 nude

  • (監督) 小沼雄一さん
  • (出演) 渡辺奈緒子さん、佐津川愛美さん、永山たかしさん、みひろっさん、山本浩司さん、光石研さん他
  • (制作) 2010年
  • (上映時間) 106分

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以下、あらすじ。(参照 Filmarks

芸能人に憧れる山瀬ひろみは、高校卒業と同時に上京。AVには出演しないことを条件にヌードモデルをし、次第に演技の仕事も受けられるようになっていく。彼女の女優になりたいという思いは強くなり、次のステップのためにAV出演を決めるのだが…。

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小沼雄一監督が、かつて実在したセクシー女優の自伝をベースに、一人の女性の葛藤と覚悟を描き出した『nude』。今やセクシー女優という職業が様々なメディアに進出し、テレビタレントやインフルエンサー、アイドルとの境界線が非常に曖昧になっている現代の視点から観ると、本作が描く2010年前後の空気感には、時代特有の生々しさとヒリついた重みが漂っています。当時は今以上に偏見の目が強く、その世界に飛び込むことへの世間の風当たりの強さや、本人たちが背負わなければならなかった精神的な負荷の大きさ、社会的な壁というものがどれほど高いものであったかを、改めて強く感じさせてくれる一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐(星3つ)

 

本作の最大の牽引力となっているのは、何と言っても主人公のひろ美(みひろ)役を体当たりで演じきった渡辺奈緒子さんの演技力だと思います。劇中でのみひろというキャラクターが、様々な葛藤を抱えながらも自らの決断で力強く歩んでいく姿と、その役柄に文字通り全身全霊で挑み、完璧に表現してみせた渡辺奈緒子さん自身のプロフェッショナルな佇まいが見事にシンクロしていました。生半可な気持ちでは決して演じられない役どころだからこそ、彼女の芯のある熱演には、スクリーンや画面を超えて観る者の心を強く揺さぶる確かな輝きがありました。

ただ、映画としての全体の構成を客観的に捉えたとき、ストーリー展開にやや物足りなさを覚えてしまったのも本音です。主人公が厳しい業界の中で圧倒的に成り上がっていくような爆発的なカタルシスや、あるいはかつて彼女の仕事を蔑んでいた高校時代の友人たちを、自らの成功や誇りによって見返すといったような、物語のピークとなる「もうひと展開」が欲しかった気がします。淡々とリアルに描きすぎたがゆえに、ドラマとしての劇的なカタルシスや盛り上がりに欠け、どこか一本調子のまま終わってしまったような印象を残すのが、非常に惜しいポイントでした。

Amazonプライムのライブラリの中でふと目に留まり、当時の世相を思い返しながら鑑賞した本作。誰もが手探りで自分の生きる道を模索していた時代の空気感と、偏見に抗いながら自分という存在を確立しようとした女性のドキュメンタリーのような切実さは、星3つという評価以上に、一人の人間の「選択の重み」を静かに考えさせてくれる、確かな足跡を持った作品でした。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 あらののはて

  • (監督) 長谷川朋史さん
  • (出演) 舞木ひと美さん、髙橋雄祐さん、眞嶋優っさん、しゅはまはるみさん、藤田健彦さん、広瀬美希さん他
  • (上映日) 2021年8月21日
  • (上映時間) 69分

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以下、あらすじ。(参照:Filmarks

25歳フリーターの野々宮風子(舞木ひと美)は、高校2年の冬にクラスメートで美術部の大谷荒野(髙橋雄祐)に頼まれ、絵画モデルをした時に感じた理由のわからない絶頂感が今も忘れられない。絶頂の末に失神した風子を見つけた担任教師(藤田健彦)の誤解により荒野は退学となり、以来、風子は荒野と会っていない。8年の月日が流れた。あの日以来感じたことがない風子は、友人の珠美(しゅはまはるみ)にそそのかされ、マリア(眞嶋優)と同棲している荒野を訪ね、もう一度自分をモデルに絵を描けと迫るが…

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長谷川朋史監督が瑞々しくも残酷な手触りで描き出した『あらののはて』は、1時間強というサクッと観られるスマートな尺の中に、誰もが胸の奥に仕舞い込んでいる「あの頃」の記憶を容赦なく揺さぶり起こしてくる一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐(星3つ)

 

本作が映し出すのは、初恋の終わりであり、それはすなわち、かつて確かに存在していた眩しい「青春の終わり」そのものでっす。長年拗らせに拗らせた感情の割には、そこから劇的に何かが始まるわけでもなく、どこか呆気なく、淡々と終わりを迎えていく。その不器用で、どうしようもない初恋のかなしさが、観終わってみるとなんだか妙に心地よく、今の自分には「ちょうど良い塩梅」に感じられました。かつてのキラキラとした時間が、もはや絶対に手が届かない、確実に「過去のもの」になってしまったのだという現実を、静かに突きつけられる感覚が胸にじんわりと広がります。

特に印象的だったのが、かつて好きだった人から呼び出された早朝のシーンです。あの、世界が自分を中心に回っているかのような非日常のウキウキ感を隠しきれない、野々宮の表情が本当に素晴らしくて惹きつけられました。観ていて思わず「わかる、わかる」と深く首を縦に振ってしまうような、誰もが一度は経験したことのある甘酸っぱい共感がそのシーンにはありました。

ただ、そんな風にエモーショナルな共感に浸れる反面、冒頭に登場する「ガム」を巡る描写には、さすがにかなり引いてしまった。あれは客観的に観ても結構なキモさというか、心理的にかなりネガティブな思いを持ってしまったのが正直なところです。ただし振り幅という意味では、あの異質で強烈なフックが、ただの綺麗な思い出補正だけで終わらせない、この映画の独特なエグみを生んでいるのかもしれません。

Amazonプライムでふと見かけて、1時間ちょっとの隙間時間に気軽に再生した作品でしたが、甘酸っぱさと、苦々しさと、ほんの少しの気持ち悪さが絶妙にブレンドされた、不思議な余韻の残る青春の墓標のような映画でした。

ありがとうございました。