暁降のころ―映画と読書のジャーナル―

暁降(あかときくたち)と読みます。もっぱら映画と小説の感想がメインです。

鑑了 サンパギータ

  • (監督) 三池力也さん
  • (出演) 小池樹里杏さん、内田裕大さん、三浦剛さん、小沢まゆさん、萩山沙貴さん、根本麗香さん、五十嵐山人さん他
  • (上映日) 2024年2月3日
  • (上映時間) 90分

sampaguita-movie.com

以下、あらすじ。(参照 Filmarks)

モデルになるため日本に来たフィリピン人のエミリアは、フォトグラファーの未来(ミキ)と出会う。異国のふたりは互いにないものに惹かれ、求め合う。未来 はその瞬間を逃さないように写真を撮り続ける。しかしそれはどこか脆く儚く、季節が流れるように突然の別れが訪れる。そして物語は海を越えフィリピンへ─ 国の文化や人としての違いを乗り越え、認め合う強さと優しい愛の物語。

youtu.be

三室力也監督がメガホンを執り、フィリピンと日本という二つの国の境界線を越えて描き出した合作映画『サンパギータ』。タイトルにある「サンパギータ」とは、フィリピンの国花であり、純潔や誓いを象徴するジャスミンの一種です。本作は実話をベースに、文化や言語の壁に直面しながらも懸命に生きる人々の姿を映し出した、非常に志の高い一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐(星3つ)

 

本作において最も惹かれたのは、やはり「異国の壁を超える」という明確なテーマ性とそのスケール感です。日本国内だけで完結する物語ではなく、フィリピンと日本の二つの国を実際に跨いでロケーション撮影が行われており、それぞれの国が持つ独特の空気感、光の捉え方、そして雑多な街並みのリアリティが画面からしっかりと伝わってきました。この地続きの国際色豊かな舞台設定があるからこそ、テーマである「異国間の境界線」が単なるお題目にならず、映像としての説得力を伴って迫ってきます。

そして、その世界観を牽引する大役を見事に果たしていたのが、主演の小池樹里杏さんです。彼女自身、フィリピンと日本の両国にルーツを持ち、日常的に複数の言語を操るバックグラウンドを持っているからこそ、言語や文化の狭間で揺れ動く「異邦人」という難しい役どころを、小細工なしの本物のアプローチで演じきっていました。彼女自身の持つ国際的な才能と佇まいが作品の核と見事にマッチしており、彼女の存在自体がこの合作映画を成立させる大きなフックになっていたと感じます。

また、昨今の映画界において時に押し付けがましく感じられてしまうこともある「多様性」の描き方についても、本作は非常に好感が持てました。声高にポリコレを主張するような過剰さは一切なく、異なる文化背景を持つ人々がごく自然に交わり、時にぶつかり、時に寄り添う姿がフラットに描かれており、その「いい塩梅」のバランス感覚は非常にスマートでした。

しかし、その一方で、一本の「劇映画」としてのクオリティに目を向けると、どうしてもシナリオの荒削りな部分が目立ってしまったのが正直な感想です。全体を通して、シーンごとの繋がりがどこか突飛に感じられる瞬間が多く、物語が次のフェーズへ移行する際の脈絡やキャラクターの心情の変化に対する説明が、圧倒的に不足している印象を拭えませんでした。

映画において、あえて多くを語らずに観客の想像力に委ねる「引き算の演出」は有効な手法ですが、今作に関してはその「多くを語らない手法」が、かえって悪い方向に作用してしまっていた気がしてなりません。特に恋愛や人間関係の描写において、登場人物たちが「いきなり別れた」かと思えば、次の瞬間には「いきなり縒りを戻した」かのような唐突な展開が繰り広げられ、観ているこちらとしてはそのスピード感と感情の飛躍についていくのが正直苦しかったです。実話をベースにした物語だからこそ、事実に引っ張られすぎて、映画的な起承転結のグラデーションや、観客を納得させるための丁寧なプロセスが疎かになってしまったのは実にもったいないと感じました。キャラクターがその決断に至るまでの心の機微を、もう一歩、上手く展開として繋げて、綺麗にまとめることができたのではないかという、シナリオへの惜しさが強く残ります。

Amazonプライムの画面を通じて、二つの国が織りなす美しいロケーションや、小池樹里杏さんの瑞々しくも説得力のある熱演には大いに魅了されました。テーマの素晴らしさや多様性へのアプローチが優れていただけに、脚本の整合性やドラマツルギーの弱さが目立ってしまった点は悔やまれますが、異国間の確かな絆を感じさせてくれる意欲作として、敬意を込めて星3つの評価とさせていただきます。

ありがとうございました。

 

   

鑑了 トゥモロー・ウォー

  • (監督) クリス・マッケイ
  • (出演) クリス・プラット、イヴォンヌ・ストラホフスキー、ベティ・ギルピン、メアリー・リン・ライスカブ、セイチェル・ガブリエル、サム・リチャードソン、エドウィン・ホッジ他
  • (制作) 2021年
  • (上映時間) 140分

eiga.com

以下、あらすじ。(参照 Prime Video)

タイムトラベラー達が緊急のメッセージを届けに2051年からやってきた。その内容は今から30年後の未来、人類はエイリアンとの戦争に敗れるというものだった。人類が生き残る唯一の希望は、今、ここにいる兵士や民間人を未来へ送り込み戦いに参加させること。娘のために世界を救うことを決意したダン・フォレスターは、地球の運命を書き換えるため、優秀な科学者と疎遠になっていた父親と結束し戦いに挑む。

youtu.be

クリス・マッケイ監督がメガホンを執り、クリス・プラットを主演に迎えて放ったAmazon Original Movieの超大作『トゥモロー・ウォー』。未来からやってきたタイムトラベラーたちと共に、30年後の地球を破滅へと追い込む未知のエイリアンとの戦争に身を投じるという、SFファンならずとも胸が躍る壮大なスケールのエンターテインメント作品でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐⭐(星4つ)

 

本作を鑑賞する上で、まず何と言っても特筆すべきは、アクションシーンにおける映像美と音響の凄まじい迫力です。今回は手軽にワイヤレスイヤホンを装着して視聴したのですが、これが大正解でした。耳元で炸裂する銃撃音や爆発音、エイリアンの咆哮、そして緊迫感を煽る重厚な劇伴がダイレクトに脳を揺さぶり、まるで自分も戦場の最前線に放り出されたかのような圧倒的な臨場感に包まれました。ハリウッドの最先端技術を惜しみなく投入した映像クオリティも素晴らしく、荒廃した未来の都市のディテールや、息つく暇もない激しい戦闘描写のパワーに、画面の隅々まで一気に引き込まれてしまいました。

ストーリーの骨組み自体は、人類の存亡を懸けて未知の脅威に立ち向かうという、ある意味で非常に分かりやすい「王道」のアクション映画です。しかし、奇をてらわない王道だからこそ、無駄のない洗練されたテンポの良さが際立っていました。物語の導入から未来への転送、そして絶望的な戦場での死闘へと息をもつかせぬスピードで展開していくため、上映時間の長さを全く感じさせることなく、最初から最後まで1秒たりとも飽きることなく一気に見届けることができました。

また、個人的に非常にありがたかったのが、敵となるエイリアン「ホワイト・スパイク」のビジュアルや演出のバランスです。俺自身、ホラー映画のジトっとした恐怖や過度なグロテスク描写があまり得意ではないのですが、今作のエイリアンは不気味でありながらも、あくまでSFアクションとしての敵役に徹した「ちょうど良い塩梅」の恐ろしさに留まっていました。その俊敏な動きや圧倒的な繁殖力による絶望感はしっかりと描きつつも、ホラーとしての嫌な後味を残さない絶妙なポップさが保たれていたため、純粋にアクションの爽快感とスリルに集中して楽しむことができたのも高ポイントです。

そして、派手な戦闘の裏側で丁寧に描かれていた、主人公のダン(クリス・プラット)を中心とした深い「家族愛」のドラマも、本作の大きな見どころであり、非常に感動的な要素でした。自分が戦う理由が、愛する娘や妻のいる未来を守るためであるという一途な想い。そして未来の戦場で待ち受ける、エモーショナルで切ない再会と共闘のドラマには、思わず胸が熱くなり、涙腺を刺激されました。単なるエイリアン退治のミリタリーアクションに終わらせず、世代を超えた親子の絆という普遍的なテーマを芯に据えたことで、物語に深いエモーションと、観終わった後の心地よい充実感がもたらされています。

Amazonプライムのオリジナル作品としてのポテンシャルの高さを見せつけられた本作。自宅にいながらにして、映画館の特等席で大作映画を観ているかのような極上のエンタメ体験を味わうことができ、個人的な満足度としては大満足の星4つをつけたいと思います。映画に求める「迫力」「テンポ」「感動」のすべてがバランスよく詰め込まれた、週末の夜にワイヤレスイヤホンをフルボリュームにして全力で没入したくなる、文句なしの快作でした。

ありがとうございました。

 

トゥモロー・ウォー

トゥモロー・ウォー

  • クリス・プラット
Amazon

   

鑑了 海街diary

  • (監督) 是枝裕和さん
  • (出演) 綾瀬はるかさん、長澤まさみさん、夏帆さん、広瀬すずさん、大竹しのぶさん、堤真一さん、加瀬亮さん他
  • (上映日) 2015年6月13日
  • (上映時間) 126分

umimachi.gaga.ne.jp

以下、あらすじ。(参照 Filmarks)

まぶしい光に包まれた夏の朝、三姉妹に届いた父の訃報。 十五年前、父は女と出て行き、その後、母も再婚して家を去った。 三姉妹を育てた祖母もとうに亡くなり、広くて古い鎌倉の家には、彼女たちだけが残った。 両親へのわだかまりを抱えた、しっかり者の長女の幸と、そんな姉と何かとぶつかる次女の佳乃、マイぺースな三女の千佳。 三人は父の葬儀で、腹違いの妹すずと出会う。 頼るべき母も既に亡くし、それでも気丈に振る舞う、まだ中学生のすず。 そんな彼女の涙を見て、幸は、別れ際に「いっしょに暮さない?」と誘う。 そして、秋風とともに、すずが鎌倉へやって来る。 四人で始める新しい生活。 それぞれの複雑な想いが浮かび上がる――。

youtu.be

是枝裕和監督がメガホンを執り、吉田秋生氏の傑作同名コミックを瑞々しく実写映画化した『海街diary』。Amazonプライムビデオのウォッチリストに登録したまま、126分というそれなりの上映時間に少し身構えてしまい、ついつい観るのを後回しにしてしまっていましたが、穏やかな休日の日曜日にようやく鑑賞の時間を設けることができました。結果として、その選択は大正解。観終わった後、胸の奥がじんわりと温かい光で満たされるような、極上の映画体験となりました。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐⭐(星4つ)

 

本作は、鎌倉の古い一軒家で暮らす三姉妹のもとに、幼い頃に自分たちを捨てた父の訃報が届くことから始まります。山形で営まれた葬儀で、三姉妹は腹違いの妹である中学生のすず(広瀬すずさん)と出会い、長女のサチ(綾瀬はるかさん)の「鎌倉で一緒に暮らさない?」という一言から、四人での新しい生活がスタートします。

映画を観てしみじみと感じたのは、こういうハラハラドキドキするようなスリリングな展開がなく、過剰な恋愛要素に振り回されることもない、どこまでも心穏やかに観られるヒューマンドラマこそが、今の俺の感性にとても深く、心地よくフィットするなということでした。劇的な事件や悪人が登場するわけではなく、ただそこに生きる人々の日常が丁寧に紡がれていく。その静かな語り口調が、日々の忙しさで強張った心をゆっくりと解きほぐしてくれるかのようです。

何より素晴らしいのが、四人姉妹それぞれのキャラクター造形と、彼女たちが織りなす関係性です。しっかり者で母親代わりとして妹たちを支える長女・サチ、自由奔放でお酒好きな次女・ヨシノ(長澤まさみさん)、マイペースで独特の感性を持つ三女・チカ(夏帆さん)、そして幼いながらもどこか健気で、姉たちに遠慮しながらも徐々に心を開いていく四女・すず。この四人の誰一人として埋もれることなく、それぞれの個性が生き生きと輝いています。彼女たちが居間でご飯を食べ、他愛のないお喋りをし、時には小さないさかいを起こす。そんな何気ない掛け合いがとにかく愛おしく、まるで自分もその古い家屋の片隅で見守っているかのような感覚に陥り、いつまでも延々とその光景を見ていられるような幸福感に包まれました。

そして、彼女たちの日常を包み込む鎌倉の海や四季折々の風景が、言葉を失うほどに美しいことも本作の大きな魅力です。初夏の紫陽花、夜空を彩る花火、桜のトンネル、そして優しく波打つ海岸線。是枝裕和監督の卓越した映像センスによって切り取られた鎌倉のロケーションは、ノスタルジーと生命力に満ちあふれており、観ているうちに「いつかこんな美しい街に住んでみたいな」と、本気で憧れを抱いてしまうほどの説得力がありました。

物語全体を振り返ってみると、ハリウッド映画のような大きな山場や、観客を驚かせるような大どんでん返しは一切なく、淡々と時間が進んでいったという印象が残ります。しかし、だからこそ劇中で描かれる、四人が本物の「家族」になっていくプロセスのひとつひとつが、嘘偽りのないリアルな重みを持って迫ってきます。不倫や家族の崩壊という、本来であれば泥沼になりかねない背景を内包しながらも、是枝裕和監督はそれをドロドロとした愛憎劇にするのではなく、遺された者たちが互いを労わり、受け入れ、共に生きていくための「救い」の物語として昇華させています。

映画が終わった後に残るのは、どこまでも優しく、とても暖かい読後感です。126分という上映時間は、観始める前こそ少し長く感じられましたが、いざ鎌倉の世界に足を踏み入れてみれば、むしろもっとこの時間が続いてほしいと願うほど、あっという間に過ぎ去っていきました。

休日の日曜日の昼下がりに、お気に入りの飲み物を片手に肩の力を抜いて鑑賞するには、これ以上ない最高の一本です。映画に派手な刺激ではなく、そっと心により添ってくれるような優しさを求めたい時に、ぜひ何度でも帰ってきたくなるような、確かな満足感をくれる星4つの大傑作でした。

ありがとうございました。

 

[rakuten:book:17636698:detail]    

映画 国宝

  • (監督) 李相日さん
  • (出演) 吉沢亮さん、横浜流星さん、高畑充希さん、寺島しのぶさん、森七菜さん、三浦貴大さん、見上愛さん他
  • (上映日) 2025年6月6日
  • (上映時間) 175分

kokuhou-movie.com

以下、あらすじ。(参照 Filmarks)

後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。
抗争によって父を亡くした喜久雄(吉沢亮)は、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。
そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介(横浜流星)と出会う。
正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人はライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが運命の歯車を狂わせてゆく...。
血筋と才能、歓喜と絶望、信頼と裏切り。
そのもがき苦しむ壮絶な人生の先にある“感涙”と“熱狂”。
「歌舞伎」という誰も見たことのない禁断の世界で、激動の時代を生き抜きながら、世界でただひとりの存在へ―― 。

youtu.be

李相日監督が、吉田修一氏の壮大な同名小説を圧倒的なスケールで実写映画化した大作『国宝』。昨年、映画館のスクリーンで観ようと心に決めつつもタイミングが合わずに逃してしまっていたため、Amazonプライムビデオで見放題のラインナップに並んだ瞬間、「待ってました!」とばかりに歓喜して鑑賞した一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐(星3つ)

 

本作は、任侠の家に生まれながらも類稀なる美貌とセンスを見出されて歌舞伎の世界へと身を投じる主人公・喜久男(吉沢亮さん)と、名門の御曹司として生まれながらも己の才能の限界に苦悩する俊介(横浜流星さん)という、対照的な二人の男の生涯を軸にした壮絶な人間ドラマです。

鑑賞前に想像していた以上に、彼らを取り巻く人間模様や、時代の荒波に揉まれながら紆余曲折していく生き様そのものに、深く魅せられることとなりました。血筋という呪縛、芸の道を極めることの狂気、そしてライバルであり唯一無二の親友でもある二人の魂のぶつかり合い。それらが重厚な大河ドラマのように紡がれていく様は、観る者の心をじわじわと掴む力強さがあります。

ただ、正直なところを言えば、俺自身は日本の伝統芸能や歌舞伎の様式美についてとりわけ詳しい知識を持ち合わせている訳ではありません。そのため、劇中で描かれる「芸の深淵」や「名跡を継ぐことの本当の重み」といった本質的なテーマそのものは、自分の人生と地続きのものとしてそこまで深くは刺さらなかった、というのが率直な感想でもあります。伝統芸能というやや敷居の高い世界を扱っている分、その内実に感情移入しきるには少し距離を感じる側面もありました。

しかし、そうした伝統芸能への知識の有無を完全に凌駕し、圧倒的な力技でねじ伏せてきたのが、この「歌舞伎役者」という異次元のハードルを演じきった若き俳優陣の凄まじい技量です。

何よりも、吉沢亮さんの狂気を孕んだ美しさと、舞台上で女形として化けるその佇まいには息を呑みました。極道の血を引きながら、血筋という最大の壁に抗い、芸に命を捧げていく喜久男の凄絶な生き様を見事に肉体化しています。そして、その対極にいる横浜流星さんの演技も見事という他ありません。歌舞伎俳優としての血筋を持ちながらも、天才である喜久男の存在に圧倒され、己の才能を求めてもがき苦しむ俊介の悲哀と焦燥感を、魂の叫びとして表現していました。どれほどの鍛錬を積めば、これほどまでに説得力のある所作や眼差しをスクリーン上で表現できるのか。二人の限界を超えた熱演とプロフェッショナリズムを観られただけでも、この作品に出会えた価値があったと確信できます。

さらに、李相日監督作品ならではの徹底的にこだわり抜かれた映像美は、今作でも素晴らしい輝きを放っています。光と影のコントラスト、厳かな舞台の空気感、そして登場人物たちの内面を雄弁に物語る静謐なロケーションなど、一コマ一コマがまるで一幅の絵画のように美しく、画面に釘付けにされました。

歌舞伎という世界の核心にまでは深く没入しきれなかったものの、それを演じた吉沢亮さんと横浜流星さんの超絶的な熱演、そして圧倒的なクオリティで構築された映像美への確かな敬意を込めて、個人的な評価としては星3つという落ち着きどころになりました。映画館の大スクリーンで観ていれば、その芸の迫力にさらに圧倒されていたかもしれませんが、自宅の画面からでも、作り手たちの狂気にも似た情熱は十分に伝わってくる骨太な名作です。

ありがとうございました。

 

国宝

国宝

  • 吉沢亮
Amazon

   

鑑了 宝島

  • (監督) 大友啓史さん
  • (出演) 妻夫木聡さん、広瀬すずさん、窪田正孝さん、永山瑛太さん、塚本晋也さん、中村蒼さん、瀧内公美さん他
  • (上映日) 2025年9月19日
  • (上映時間) 191分

www.takarajima-movie.jp

以下、あらすじ。(参照 Filmarks)

ある夜、一人の英雄が消えた。アメリカ統治下の沖縄で、自由を求め駆け抜けた若者たちの友情と葛藤を描く感動超大作。
英雄はなぜ消えたのか?幼馴染3人が20年後にたどり着いた真実とはー。
沖縄がアメリカだった時代。米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちがいた。いつか「でっかい戦果」を上げることを夢見る幼馴染のグスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)の3人。そして、彼らの英雄的存在であり、リーダーとしてみんなを引っ張っていたのが、一番年上のオン(永山瑛太)だった。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは“予定外の戦果”を手に入れ、突然消息を絶つ…。残された3人は、「オンが目指した本物の英雄」を心に秘め、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、オンの影を追いながらそれぞれの道を歩み始める。しかし、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実に、やり場のない怒りを募らせ、ある事件をきっかけに抑えていた感情が爆発する。
やがて、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出すー。
消えた英雄が手にした“予定外の戦果”とは何だったのか?そして、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とはー。

youtu.be

大友啓史監督がメガホンを執り、戦後の激動する沖縄を舞台に圧倒的なスケールで描き出した『宝島』。日本を代表する豪華キャスト陣の競演と、画面から溢れ出るほどの凄まじい熱量、そして私たちが知るべき歴史の重みがダイレクトに伝わってくる、非常に骨太で見応えのある一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐(星3つ)

 

本作を観てまず圧倒されるのは、制作陣およびキャスト陣がこの作品に注ぎ込んだ、並々ならぬ気合と熱量です。激動の時代背景をリアルに再現した美術やロケーション、一瞬の妥協も許さない緊迫感に満ちたカメラワークなど、映画という表現の力を信じる作り手たちのプライドが画面の隅々からビシバシと伝わってきます。

その熱量に完璧に応えてみせた役者たちの演技は、まさに言わずもがなの素晴らしさでした。主演の妻夫木聡さんは、時代の荒波に翻弄されながらも己の信念を貫こうとする人間の強さと泥臭さを体当たりで表現しており、観る者を一瞬で物語へと引き込みます。また、広瀬すずさんが魅せる、過酷な現実を生き抜く女性の内に秘めた芯の強さと、時折覗かせる繊細な表情の変化には目を見張るものがありました。さらに、窪田正孝さんの狂気と哀愁が入り混じったエモーショナルな熱演が作品に強烈なエッジを加えており、この実力派たちのぶつかり合いを観ているだけでも、映画としての贅沢さを十分に堪能することができます。

物語の主軸となるのは、戦後の沖縄が歩んできた、決して忘れてはならない暗く深い歴史です。米軍統治下の混沌とした社会、人々の尊厳を脅かす不条理な現実、そしてその中で抗い、生き抜こうとした者たちの血の滲むようなドラマが容赦なく描き出されます。

現代の私たちにとって「沖縄」といえば、青い海と豊かな自然に囲まれた日本屈指のリゾート地、あるいは穏やかな時間が流れる観光地というクリーンな印象がどうしても先行しがちです。しかし、今私たちが目にするその美しい景色の裏側には、これほどまでに壮絶で、割り切ることのできない傷跡と、血を流した先人たちの闘いの歴史が確実に存在しているのだという事実を、本作は容赦なく突きつけてきます。現在のリゾート地としての華やかなイメージが強いからこそ、劇中で描かれる過去の暗部とのコントラストが際立ち、戦後から現代へと続く沖縄の歩みについて、本当に色々と深く考えさせられるきっかけをくれる作品でした。

映画としてのクオリティは非常に高く、作り手の魂が込められた大作であることは間違いありません。ただ、歴史の持つ重厚さや凄惨なテーマ性が前面に出ている分、エンターテインメントとして気軽に楽しむには少し気力がいる部分や、描ききれなかったディテールへの惜しさを感じる側面もあり、個人的な満足度としては確かな敬意を込めての星3つという評価に落ち着きました。

Amazonプライムの画面からでも、大友啓史監督らしい重厚な演出と、演者たちの熱い魂のぶつかり合いは十二分に伝わってきます。単なるフィクションとして消費するのではなく、日本の戦後史のミッシングリンクに光を当てた社会派エンターテインメントとして、背筋を伸ばしてじっくりと対峙したい、そんな強い余韻を残す一本でした。

ありがとうございました。

 

宝島

宝島

  • 妻夫木聡
Amazon

   

鑑了 早乙女4姉妹

  • (監督) 犬童一利さん
  • (出演) 清水絢子さん、寒川綾奈さん、福田愛美さん、椿明来さん、イジリー岡田さん、阿知尚康さん、堂免一るこさん他
  • (上映日) 2015ねん10月17日
  • (上映時間) 92分

eiga.com

以下、あらすじ。(参照 Filmarks)

「CHARM UP GIRLS」出身の美少女ユニット「Kiss Bee」のメンバーなども出演している。有名雑誌の人気モデルをしている長女ミカ、売れないロックボーカリストの次女ユキ、冴えない小劇団の団員の三女エリ、アイドルユニットでセンターを務める四女マイの早乙女家の4姉妹は、日本で一番有名な姉妹になることを目標にしていた。しかし、ある日、芸能界で絶大な力を持つ芸能事務所GOLDの社長にミカが呼び出されたことから、4人の運命は狂い始めて……。

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犬童一利監督がメガホンを執り、四人の姉妹を主人公に据えた約10年前の作品『早乙女4姉妹』。様々な要素が詰め込まれている一方で、作品としての芯がどこにあるのかが見えにくく、鑑賞後に不思議な戸惑いが残る一作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐(星2つ)

 

本作を観て率直に感じられたのは、おっしゃる通り「この映画は一体何を見せたいのか」というコンセプトの曖昧さです。緻密なストーリー展開で魅せる人間ドラマなのか、それとも出演者たちの初々しい魅力を前面に押し出したアイドル映画的なビジュアル重視の作品なのか、はたまた刺激的なセクシー要素をフックにした作品なのか。それぞれの要素が中途半端に混ざり合ってしまっている印象が強く、結果としてどの方向性にも振り切れていないもどかしさを感じてしまいました。

映画が公開されてから約10年という歳月が流れた今、改めてこの作品を振り返ってみると、出演されていた清水絢子さん、寒川綾奈さん、福田愛美さん、椿明来さんのその後のメディア露出の状況も含めて、作品が世間に与えたインパクトや最終的な評価が、残酷なまでに透けて見えてしまう部分があります。映画という場所が若手俳優さんたちの登竜門やステップアップのきっかけになることも多い中、この作品がその起爆剤になり得なかったという事実そのものが、一本の映画としての完成度や求心力を物語っているのかもしれません。

Amazonプライムの膨大な作品群の中には、時としてこのように時代のあだ花のような、方向性を模索したまま着地に苦戦してしまったインディーズ作品に出会うことがあります。それもまた映画を観る上での一つのリアリティであり、当時の制作現場の試行錯誤を感じさせる、星2つという評価にふさわしいビターな鑑賞体験でした。

ありがとうございました。

 

早乙女4姉妹

早乙女4姉妹

  • 清水絢子
Amazon

   

鑑了 バビロン

  • (監督) デイミアン・チャゼル
  • (出演) ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、リー・ジュン・リー、P・J・バーン他
  • (上映日) 2023年2月10日
  • (上映時間) 188分

eiga.com

以下、あらすじ。(参照 Filmarks)

1920年代のハリウッドは、すべての夢が叶う場所。サイレント映画の大スター、ジャック(ブラッド・ピット)は毎晩開かれる映画業界の豪華なパーティの主役だ。会場では大スターを夢見る、新人女優ネリー(マーゴット・ロビー)と、映画製作を夢見る青年マニー(ディエゴ・カルバ)が、運命的な出会いを果たし、心を通わせる。恐れ知らずで奔放なネリーは、特別な輝きで周囲を魅了し、スターへの道を駆け上がっていく。マニーもまた、ジャックの助手として映画界での一歩を踏み出す。しかし時は、サイレント映画からトーキーへと移り変わる激動の時代。映画界の革命は、大きな波となり、それぞれの運命を巻き込んでいく。果たして3人の夢が迎える結末は…?

youtu.be

デイミアン・チャゼル監督が、1920年代後半のサイレント映画からトーキー(発声映画)へと移り変わる激動のハリウッドを舞台に、映画に魅了された人々の栄枯盛衰を圧倒的なスケールで描き出した『バビロン』。今日という一日の締めくくりに相応しい、映画への愛と狂気がこれでもかと詰め込まれた、非常にエネルギッシュで濃密な大作でした。

 

【俺の評価】⭐⭐⭐(星3つ)

 

本作を観てまず引き込まれるのが、100年前のハリウッド映画の変遷と、当時の映画制作がいかに過酷で、破天荒で、狂気に満ちあふれていたかという舞台裏の描写です。技術が未熟だったがゆえの撮影現場の凄まじい混沌ぶり、命がけとも言える過酷なロケーションなど、今の洗練された映画界からは想像もつかないような泥臭いエネルギーが画面から爆発しています。混沌の中から一つの「奇跡」のようなワンカットが生まれる瞬間の熱量は、観ているこちらの胸を熱くさせる面白さがありました。そして、その狂騒的な世界を全編にわたって彩るジャスティン・ハーウィッツの手掛けた音楽が、文句なしに格好良い。ジャズをベースにしたエッジの効いた劇伴は、映画のテンポを爆発的に加速させ、聴いているだけでアドレナリンが溢れ出るような高揚感を与えてくれます。

このエネルギッシュな世界観の中で、ハリウッドの頂点に君臨する大スター・ジャックを演じたブラッド・ピットの格好良さは、まさに言わずもがな。スターとしての圧倒的なオーラと、時代の変化に取り残されていく人間の哀愁を見事に体現しており、大人の男の渋みと色気に終始魅了されます。一方で、スターを夢見て這い上がる野生的なヒロイン・ネリーを演じたマーゴット・ロビーの爆発力も凄まじい。彼女の持つ野性味、危うさ、そして圧倒的な美しさと瑞々しい魅力がスクリーンいっぱいにあふれ出るようなストーリー構成になっており、彼女の眼差し一つに観客全員が翻弄されるような強烈な引力がありました。

ただ、189分という非常に長い上映時間ということもあり、物語の中盤、登場人物たちが時代の荒波の中でそれぞれに足掻き、迷走していくパートでは、展開が少し足踏みをしてだれてしまったように感じられたのも正直なところです。前半の狂乱的なハイテンションが凄まじかった分、物語がシリアスに沈み込んでいく中盤のテンポ感には、やや疲れを覚えてしまう側面もありました。

しかし、そうした中盤の弛みを一気に吹き飛ばし、本作を特別なものに昇華させているのが、圧巻の終盤からラストにかけての演出です。劇中で時が経ち、かつてあの狂騒の渦中にいた人々が去った後、改めて映画の歴史を振り返り、それが現代、そして未来の映画へと確かに繋がっているのだと証明する一連の表現は、鳥肌が立つほどにエモく、映画ファンとしての感情を激しく揺さぶられました。私たちが今、何気なく映画館やAmazonプライムの画面で楽しんでいる映画の1コマ1コマには、かつて人生のすべてを賭けて散っていった名もなき先人たちの魂が宿っている。そんな映画の持つ普遍的な魔力と「歴史のバトン」を感じさせる幕引きには、深い感動を禁じ得ません。

中盤の長さや、万人受けしない下品で過激な描写も多いため、手放しで誰にでも勧められる作品ではありませんが、映画というエンターテインメントの持つ「光と影」を泥臭く描き切った怪作であることは間違いありません。ハリウッドへの痛烈な皮肉と、それ以上の深い愛が込められた作り手の熱量に敬意を表し、個人的な満足度としては星3つという評価に落ち着きました。今日という日の終わりに、これほど熱く、切なく、そしてエモーショナルな余韻に浸れる映画に出会えたのは、最高の締めくくりとなりました。

ありがとうございました。

 

バビロン

バビロン

  • Brad Pitt
Amazon