暁降ちのころ

暁降ち(あかつきくたち)と読みます。40歳から始めた日常の整理、備忘録などを思うままに好き勝手書いています。

読了 終末のフール

著者 伊坂 幸太郎

八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。

 

~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

最近、伊坂幸太郎さん続きだけど仕方ないよね。だって好きなんだもの。

 

この『終末のフール』は、8年後に小惑星が地球に衝突し、人類が滅亡するという予言が発表された後の世界を舞台にした短編集。仙台北部の団地「ヒルズタウン」に住む人々の生き方や人間関係を描いた6つの物語で構成されています。

伊坂さんの作品は、緻密な構成とユーモアのセンスが魅力的なのは知る人ぞ知るところですが、この本ではそれに加えて、テーマが『終末』ということもあり、人生の意味や価値について深く考えさせられる作品になっています。終末を前にして、人々はどう生きるのか、どう死ぬのか、どう愛するのか、どう許すのか、といったテーマがそれぞれの物語に込められています。

 

例えば、第一話の「終末のフール」では、息子が自殺したと思い込んでいる父親が、息子の友人から真実を聞かされるという展開がある。父親は、息子が自分のせいで死んだという罪悪感から解放されるとともに、息子が自分を愛していたことを知る。なんだけど、そのことが父親の心にどんな影響を与えるのかは、読者に委ねられていて、父親は息子の死を受け入れて前に進めるのか。それとも、息子の死を忘れてしまうのか。終末の世界では、どちらが正しいのだろうか。。。

 

第二話の「太陽のシール」では、子供ができなかった夫婦が、終末の3年前に妊娠するという奇跡が起こる。夫婦は、子供を産むべきか、産まないべきか、という選択に直面し、夫は子供を産んで幸せな時間を過ごしたいと思うが、一方で妻は、子供に苦しい思いをさせたくないと思う。夫婦は、自分たちの幸せと子供の幸せという、相反する価値観に揺れ動く。終末の世界では、どちらが正しいのだろうか。。。

 

他の物語も同様に、人間の本質や倫理に関する問いかけが隠されている。そして伊坂さんは、それらの問題に対して答えは提示しない。読み手に考える余地を与えるだけでなく、登場人物たちにも考える機会を与えている。登場人物たちは、終末の世界で自分の生き方や死に方を選択することになり、その選択は必ずしも正解とは限らない。それでも彼らは、自分の選択に責任を持って生きていることが読んでいてイメージできる。

 

本作品では終末の世界を描くことで、人間の生と死について、普段は見過ごしてしまうような側面を浮かび上がらせている。終末の世界では、人間はどう生きるべきなのか、という問いは、現実の世界では『人間はどう生きるべきなのか』という問いに変わる。『終末』という一見ヘビーなテーマ設定のなか、各物語はサクサク読み進めることができる作品。読み終えた後は、自分の生き方をもう一度考え直したくなる瞬間があるかもしれません。

 

ありがとうございました。

 

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