暁降ちのころ

暁降ち(あかつきくたち)と読みます。40歳から始めた日常の整理、備忘録などを思うままに好き勝手書いています。

読了 ゴールデンスランバー

著者 伊坂 幸太郎

仙台での凱旋パレード中、突如爆発が起こり、新首相が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に巻き込まれているから逃げろ」と促される。折しも現れた警官は、あっさりと拳銃を発砲した。どうやら、首相暗殺犯の濡れ衣を着せられているようだ。この巨大な陰謀から、果たして逃げ切ることはできるのか?

 

~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

1月1日に更新した記事は年末に予約投稿していたので、2024年の書き始めはこの記事からです。本厄となる今年ですが、できる限り日常を陽気に過ごせるよう、そして年末にまだ書くことを続けられてるよう、趣味として続けていきたいという思いを込めて。

 

こちらの作品も鎖骨骨折後の療養期間にと妻が買ってきてくれたものです。毎年のあの形容しがたい年の瀬の盛り上がりがどうも苦手で、だから勿論テレビを見ることはなく、かといってこの身体で友人と飲みに行くことも今年はなかったので、大人しく読書に耽り、年越しも迫った12月31日の夜に読み終えました。

2007年の発行なので、今から17年も前になるんですね。2008年本屋大賞受賞、第21回山本周五郎賞受賞作品。『このミステリーがすごい!』2009年版1位の作品。今更感もありますし、きっとこんな場末のブログを参考にして読書に勤しむ人なんていないだろうから、ある程度ネタバレも含めて書いてしまいます。

伊坂幸太郎さんの小説「ゴールデンスランバー」は、首相暗殺の濡れ衣を着せられた宅配ドライバーの青柳雅春が、旧友や見知らぬ人たちの助けを借りながら逃亡するというストーリーです。ケネディ大統領暗殺事件やビートルズのアルバム「アビーロード」をモチーフにし、現在と過去、現実と虚構が入り混じった構成になっています。

(参照 Wikipedia

首相公選制が存在する世界の現代日本仙台市では期待のダークホースとして初当選した金田首相の凱旋パレードが盛大に行われていた。パレードを無視して、数年ぶりに大学時代の親友・森田森吾との待ち合わせ場所に急ぐ青柳雅春。宅配ドライバーの彼は数年前に暴漢に襲われていたアイドルの凛香を仕事中偶然にも助けたことで一躍時の人となり、地元では顔を知られた有名人であった。森田の様子がおかしいことを訝しむ青柳に、「お前、オズワルドにされるぞ」と告げる森田。その直後に、背後でパレード中の首相が、どこからともなく飛んできたドローンの爆発により暗殺された。警官が青柳らの車に駆け寄る中、「お前は逃げろ」と青柳を逃がす森田。わけも分からず青柳が降りた車は、森田を乗せたまま爆発した。直後から、ニュースで早くも青柳の顔写真や映像がくり返し流され、首相暗殺犯として大々的に報道され始めた。青柳は、警察やマスコミを意のままに操作出来る大きな何かが、それなりに顔を知られ発見され安い自分を犯人に仕立て上げようとしていることを思い知らされる。学生時代の恋人や、人の良い「連続通り魔犯」など様々な人々の力を借りて、逃走につぐ逃走を重ねる青柳。だが、遂に追い詰められた青柳は、死体となって発見された。首相暗殺事件が解決した2ヶ月後。青柳の両親や協力者の元に様々な形で報せが届いた。それは、青柳と当事者しか知らない内容で、さり気なく青柳の生存を示す内容だった。見つかった死体は偽者だったのだ。整形した青柳は身元を偽り、ひとり静かに姿を消した。

伊坂幸太郎さんの作品はファンとも言えるくらい読み漁っていますが、どの作品も、登場人物たちの会話や心理描写がとても洒落ていて、読んでいて飽きません。特に、青柳の大学時代の友人たちとの思い出が、物語に温かみとユーモアを加えていて、自分の学生時代を思い出す。青柳が花火工場で働いたり、ご飯粒を残したり、歌を歌ったりするシーンも印象に残りました。青柳が最後に両親に送った手紙、これも切なかったです。

一方で、この小説は、社会の陰謀や不正に対する批判も込められていると感じました。青柳が巨大な組織によって犯人に仕立て上げられ、マスコミによってイメージ操作される様子は、現代の日本社会にも通じるものがあります。そして人権やプライバシーが無視され、真実が隠されることの恐ろしさを、この小説は教えてくれる気がします。(その是非には言及しないけど、年末にあった文春砲といわれる暴露記事に俺が辟易していたこともあり…)

この小説は、スリルと感動のバランスが絶妙な傑作。中村義洋監督により堺雅人さん主演で映画化もされてるとのこと。いつもなら小説は小説、映画は映画と思って両方に手を出すことはないですが、これはどういう感じにまとめられてるのか一度見てみたかったりします。

 

ありがとうございました。