暁降ちのころ

暁降ち(あかつきくたち)と読みます。40歳から始めた日常の整理、備忘録などを思うままに好き勝手書いています。

読了 2020年の恋人たち

著者 島本 理生

ワインバーを営んでいた母が、突然の事故死。落ち着く間もなく、店を引き継ぐかどうか、前原葵は選択を迫られる。同棲しているのに会話がない恋人の港、母の店の常連客だった幸村、店を手伝ってもらうことになった松尾、試飲会で知り合った瀬名、そして……。楽しいときもあった。助けられたことも。だけどもう、いらない。めまぐるしく動く日常と関係性のなかで、葵が選んだものと選ばなかったもの――。直木賞受賞後長篇第一作。

 

~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

その昔、CDセールスが今よりもっと活気があったとき、時間を見つけてはTower Recordに足を運び、輸入盤CDをジャケ買いして買い漁ってた記憶があります。もちろん音楽は聴くのですが、それ以上の所有欲。そのジャケットを部屋に飾っておくことに満足していました。

年越しも迫った昨年の12月31日。妻に車の運転をお願いし、近所の書店に連れて行ってもらい、当面の間に読む書籍を仕入れてきました。本作品はそのなかのひとつ。前々から少し気になっていた島本理生さんの作品だということ。これまで手を出してこなかった恋愛小説だということ。東京、そしてワインバーを中心に進むストーリー。そして最後に決めてになったのは”ジャケット”。書店の書棚ではあまり目立つ場所に置かれている訳ではなかったんですが、俺には強烈に刺さりました。

さて内容。この作品は島本理生さんが「ファーストラヴ」という作品で直木賞受賞後、初の長編作品だそうです。(読了後、そちらも気になりだしました)主人公は前原葵という独身女性。ワインバーを営んでいた母が事故死したことをきっかけに、自分の人生の恋愛について考えていくというお話。恋人の港とは同棲していますが、彼は部屋に引きこもっている。母の店の常連客だった幸村という年上の男性。母から引き継いだ店を手伝ってくれる松尾。試飲会で出会う編集社に勤めるスマートな存在の瀬名。葵と同じように飲食店を切り盛りする海伊。さまざまな男性との関係を通して、葵自身の本当の気持ちや選択を見つけていく。

この小説は「女性の煩悶と決断を描いた大人の恋愛小説」だと言われてるそうですが、島本さんの繊細で綺麗な文体が主人公である葵の新庄や感覚を鮮やかに表現していて、読み手が男性であっても綺麗に入ってくるのではないかと思います。登場人物たちの感情や思いが交錯する場面は、かなり感情移入できて胸が締め付けられます。個人的には葵の上司である部長が好きでした。俺もこんな上司になりたい。そう思わせる人物。

あとこの小説で触れておかないといけないのは、ワインのこと。ワインバーを中心に進むストーリーだけあって、ワインにまつわる知識やエピソードが豊富に盛り込まれています。葵が母の店を継ぐことになり、ワインの世界に触れることで、自分の成長や変化を感じていくんだけど、ワインの種類や特徴、産地や歴史、飲み方や楽しみ方など、ワインに関する情報は、すごく興味深く、楽しめました。

読み終えてみて、恋愛小説あなどるなかれ。食わず嫌いはしちゃだめだなと思いました。本作品は女性の人生と恋愛を描いた魅力的な小説。葵の選択や決断に共感したり、考えさせられたりすると同時に、ワインに関する知識やエピソードも楽しめる一冊。2020年の作品だから、コロナ禍のなかで読んでるともっと違う角度で見れたのかもしれません。それだけがひとつ後悔。

 

ありがとうございました。