暁降ちのころ

暁降ち(あかつきくたち)と読みます。40歳から始めた日常の整理、備忘録などを思うままに好き勝手書いています。

読了 フェルマーの最終定理

著者 サイモン・シン

 

17世紀、ひとりの数学者が謎に満ちた言葉を残した。「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」以後、あまりにも有名になったこの数学界最大の超難問「フェルマーの最終定理」への挑戦が始まったが―。天才数学者ワイルズの完全証明に至る波乱のドラマを軸に、3世紀に及ぶ数学者たちの苦闘を描く、感動の数学ノンフィクション。

 

~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

この本、そしてこの著者との出会いはほんとに偶然。通勤中に読む本を書店で探してたとき『小説じゃなく、読んでてもう少しスキルアップする本がいいな』と思い、ビジネス書コーナーをウロウロしてるときにたまたま見つけた。しかもそこに並べられてたのではなく誰かが元の場所に戻さず置かれっぱなしになってたのを、なんとなく手に取ったのが最初。

裏表紙の解説を読み、冒頭に目を通すと、どうやらこの本は、数学界最大の超難問と呼ばれる「フェルマーの最終定理」の歴史と解決のドラマを描いたノンフィクションらしかった。中学、高校と数学(というより数学教師が 笑)が大嫌いで、数学の授業を受けたくないがために外国語コースに進んだ私。それがどういう訳か、社会人になってから少しずつ数学に興味を覚え、以前のような苦手意識はほとんどなくなった今。この本を読み出すと予想以上に面白くて、それはそれは感動した。

 

その理由をいくつか挙げてみる。

 

まずこの本は、数学の難しい内容を分かりやすく説明してくれている点。そもそもで言うと、タイトルのフェルマーの最終定理とは、次のような命題。

「3以上の自然数 n について、xn+yn=zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない」

これは、ピタゴラスの定理の一般化とも言えるそうだが、ピタゴラスの定理はn=2の場合に成り立つんだって。それをフェルマーは『この命題を証明できる』と書き残したんだけど、その証明自体は結局見つからなかった。この本では、この命題に挑戦した数学者たちの歴史を紹介しながら、その背景にある数学的な概念や理論を、図や例を用いてわかりやすく解説してくれる。

例えば、楕円曲線やモジュラー形式という、フェルマーの最終定理の証明に必要な数学の分野を、ドーナツやカレンダーという身近なものに例えて説明してくれたり。もちろん私も苦手を克服したとはいえ、数学者にはまだまだほど遠い存在なんだけど、この本はフェルマーの最終定理の証明の大まかな流れや美しさを理解するには十分だった。

 

次にこの本は、数学者たちの人間ドラマを感動的に描いてくれている点。フェルマーの最終定理は、300年以上にわたって、世界中の数学者たちの挑戦の対象となるが、その多くは失敗に終わっている。だけどこの作品では、その失敗の原因や影響を詳しく分析しながら、数学者たちの苦悩や情熱がリアルに伝わってくる。例えば、19世紀の数学者ソフィー・ジェルマンは、女性であることを隠して数学の研究を行い、フェルマーの最終定理の特殊な場合について重要な成果を残すんだけど、その後の数学界での評価は低く、ソフィーの業績は長く忘れられてしまうことになる。また、20世紀の数学者ポール・ヴォルフスケールは、フェルマーの最終定理の証明を発表するが、その証明には誤りがあり、ヴォルフスケールはそのショックで自殺してしまう。こんなふうに、フェルマーの最終定理は、数学者たちの運命を大きく左右することもあり、悪魔の証明とまで言われるように。

 

その一方で、この作品はフェルマーの最終定理の証明に成功した数学者アンドリュー・ワイルズの物語を中心に展開されていく。ワイルズは、10歳のときにフェルマーの最終定理に出会い、それ以来、その証明に魅了される。ワイルズは数学界の最前線で活躍しながら、ひそかにフェルマーの最終定理の証明に取り組みを続け、7年間の孤独な研究の末に、1993年にフェルマーの最終定理の証明を発表する。しかし、その証明には欠陥が見つかってしまい、その欠陥を修正するために、さらに1年間の苦闘を続ける。そして1994年、ついに完全な証明を完成させる。

そんな感じで、この本の後半、ワイルズの証明の過程や内容を詳細に追いながら、彼の感情や思考がリアルに描かれている。そして、ワイルズが自分の夢を実現した瞬間の感動や喜び。手に汗握るという表現がぴったりのようにこちらへ伝わってくる。

 

最後に、これは後から解説に書かれてたことを読んだ受け売りなんだけど、この作品は数学という学問の本質や価値を問いかけてくれるんだって。(残念ながら私にはまだそこまでの数学力が無かったが…)

フェルマーの最終定理は、数学の中でも特に純粋な部分に属する問題だそう。その証明には現実の世界とは関係のないような抽象的な概念や理論が必要となり、そのため、その証明は実用的な意義や応用の可能性に乏しいと言われることもある。だけど、この本では、フェルマーの最終定理の証明が、数学の発展にどのように貢献したかを順番に説明してくれている。例えば、フェルマーの最終定理の証明には、楕円曲線とモジュラー形式という、数学の異なる分野を結びつける重要な定理が必要で、この定理は数学の統一性や美しさを示すものだそうだが、それだけでなく、暗号やコンピュータなどの分野にも応用できる可能性があったとか。。。

 

この作品では、数学という学問が、人間の知的好奇心や創造力を満たすだけでなく、人間の文化や社会にも貢献できることを示してくれている。たぶん私が読めたのだから、数学の知識がなくても楽しめる作品。数学に興味がある人はもちろん、そうでない人も、希望を言うなら数学に対して得意、不得意を感じる前にぜひ読んでみて欲しい。

 

ありがとうございました。