著者 白石 一文
出版社に勤務する29歳の「僕」は3人の女性と同時に関係を持ちながら、その誰とも深い繋がりを結ぼうとしない。一方で、自宅には鍵をかけず、行き場のない若者2人を自由に出入りさせていた。
常に、生まれてこなければよかった、という絶望感を抱く「僕」は、驚異的な記憶力を持つ。その理由は、彼の特異な過去にあった。生と死のの分かちがたい関係を突き詰める傑作。
~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2002年の作品。10年ほど前になるのか、前の部署にいてたときくらいに、この著者の作品に一時期はまっていたことがある。小説に対する読書熱が冷めるとともに、しばらくぶりとなってしまったが、実はこの作品は再チャレンジ。以前にも書店で購入し、冒頭部分だけ読んだのち、自宅のどこかにしまいこんだままになってしまっていた。
40歳にもなる今年、どういう訳かまた私のなかの読書熱が再発してきたこと。そして古本屋でそのタイトルを見たときに何か急激に惹かれるものを感じたことから、再度購入。今回は10日足らずで一気に読み進めた。
この小説は、自分の感情に鈍感な主人公が、恋人や友人との関係に翻弄されながら、自分自身を見つめ直す物語。タイトルの「僕のなかの壊れていない部分」とは、主人公が自分の心の傷や欠落を埋めようとしても見つからないものを指す。
物語は、主人公が同時に3人の女性と関係を持っていることから始まる。主人公は、美しい恋人・枝里子、同僚で親友・真理子、元カノで今は友達・美咲という3人の女性に対して、それぞれに違う態度や言葉を使っているが、本当に愛しているのは誰なのか、自分でもわからない。そして彼は驚異的な記憶力を持っているが、それゆえに過去の出来事や言葉を忘れられずに苦しむシーンが多くみられる。
本作品を読んでいて、主人公の心理描写や言動にはドキドキした。また、白石一文さんらしい繊細で美しい文体も魅力的だった。あっという間だったけど、読後感がとても切ない一冊。
ありがとうございました。