暁降ちのころ

暁降ち(あかつきくたち)と読みます。40歳から始めた日常の整理、備忘録などを思うままに好き勝手書いています。

読了 BUTTER

著者 柚木 麻子

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木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく――。男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。

 

~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

文庫になっていることを知らずに、ずっと読みたいなーと思っていた作品。かなり前になるが、夏休みに子供と一緒に買い物へ行ったときに寄った書店で「夏におすすめの新潮文庫」特集で平積みされているのを見つけ、もちろん即買い。ちょっと色々とあって文字を読むのに時間がかかっていた時期と重なったのもあるが、読み始めたのが9月末くらいからだったので、今回は異例の約3か月かけての読破。

まず本作品の感想として、一番最初に出てくるのは「美味しいもの」にもっとどん欲になろうという思い。なるほどトーストした食パンに塗るのをマーガリンで妥協してたら絶対にダメだ。あとひとかけらの高級バターを温かいご飯に乗せて、醤油を一滴垂らして食べるというやつ、ぜひやってみたくなった。

次に印象的だったのは、里佳という主人公を通じて描かれる人間関係。それも特に女性同士の関係。里佳と怜子の関係もそうだけど、料理教室のマダムたち、そしてそのマダムたちとカジマナの関係も、読んでいると情景が手に取るように浮かんでくるようだった。

最後にストーリーについて。本作品は木嶋佳苗事件をベースに書かれているそうだけど、やっぱりあくまでも小説。カジマナの殺人の動機が紐解かれることは無かったし、里佳がカジマナを取材して週刊誌の記事にすることで、何がしたかったのかは結局最後まで良く分からなかった。ただし、これは俺の読解力の問題なのかもしれない。

あと作中に出てくるセリフについては、ルッキズムとかフェミニズムが気になる人は引っかかる表現がいくつかある気もする。俺は全然気にしないタイプだけど、レビューサイト見てるといくつかそんな意見もチラホラ。

たとえば

あれほどまでにバリアを張り巡らし、強靭な精神力で自己肯定し続けなければ、胸を張って生きることが困難な程、この世界の容姿に対する基準は厳しいのだ。

とか、他にも

どんなに美しくなっても、仕事で地位を手に入れても、仮にこれから結婚し子どもを産み育てても、この社会は女性にそうたやすく、合格点を与えたりはしない。こうしている今も基準は上がり続け、評価はどんどん先鋭化する。この不毛なジャッジメントから自由になるためには、どんなに怖くて不安でも、誰かから笑われるのではないかと何度も後ろを振り返ってしまっても、自分で自分を認めるしかないのだ。

とはいえ、やはりこの作品は料理を中心に読んで欲しい。たぶん読み終わった人はみんな、成城石井とかちょっと高級なスーパーにバター買いに行こうって思うんじゃないかな。

ありがとうございました。