暁降ちのころ

暁降ち(あかつきくたち)と読みます。40歳から始めた日常の整理、備忘録などを思うままに好き勝手書いています。

読了 砂漠

著者 伊坂 幸太郎

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入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決……。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれを成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。

 

~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ずっと読みたいと思っていた作品。いつも行く書店には何故か置いてなくて、3か月ほど探し求め、ようやく購入。違う用事で寄った遠方の書店で見つけたのだが、そこにはなんと新潮文庫実業之日本社文庫と双方揃っていた。パッケージだけ見れば圧倒的に後者なのだが、本の厚みや文字の大きさを比べ、俺は前者を選択した。

それで読み始めたのは夏休みが後半に差し掛かった8月のお盆頃。ちょうど翌週に鎖骨プレートの抜釘手術も予定しており、入院期間に読みたかったことに加え、もしその期間に読めなくても8月中には読了できそうだと思ったから。そう、この作品を最大限に満喫したいという気分から、なぜか8月という夏休みが終わるまでに読み終えたかった。

 

読み始める前から期待度100%、いや120%以上だったのだが、やはり読了してみた感想としては最高のひとことに尽きる。まず登場人物。主人公の北村。伊坂作品に良く出てきそうなキャラである鳥井。そして独特の世界観に引き込まれ過ぎた西嶋。大学一の美女である東堂。鳥井の中学の同級生の南。あと忘れてはならないのが、幹事役の莞爾ね。

それぞれの苗字にちなんだ麻雀のくだり。俺が嫌いな部類の雰囲気漂うホストとのボウリング対決。空き巣との対決からの鳥井の復活劇。西嶋と東堂の関係などなどが春夏秋冬ごとに描かれており、そして最後はもちろん旅立ちという形の大学卒業。自分自身の経験をすべて投影できるわけではないが、長いようで短かった大学生活を、思い出しながら読み進めていた。

あと、触れずにはいられないのが西嶋というキャラクター。嚙めば嚙むほど味が出るタイプとはまさに彼のこと。以下、書き残しておきたい彼のセリフを列挙する。

  • その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ
  • そうやって賢いフリをして、何が楽しいんですか。この国の大半の人間たちはね、馬鹿を見ることを恐れて何もしないじゃないですか。馬鹿を見ることを死ぬほど恐れてる、馬鹿ばっかりですよ
  • 偽善は嫌だ、とか言ったところでね、そういう奴に限って、自分のためには平気で嘘をつくんですよ
  • あのね、目の前の人間を救えない人が、もっとでかいことで助けられるわけないじゃないですか。歴史なんて糞食らえですよ。目の前の危機を救えばいいじゃないですか。今、目の前で泣いてる人を救えない人間がね、明日、世界を救えるわけがないんですよ

 

本作品では「社会=砂漠」と表現されている。そしてストーリーはモラトリアム期間ともいえる大学生活の4年間。そのため読む人間が俺のように20年以上前を思い起こしてなのか、今まさになのか、これからなのか、その世代によって感じ方はそれぞれなのかもしれないが、巻末の解説で吉田伸子さんが言っていることが、ある意味で真理をついている気がした。

十九、二十歳といった年頃というのは、実はとても危なっかしい時期である。そんな時期をうまくやり過ごすためにどうすればいいのか。ひたすらに無駄な時間を過ごすこと、である。(途中、略)

卒業式での学長の言葉も素敵。

学生時代を思い出して、懐かしがるのは構わないが、あの時は良かったな、オアシスだったな、と逃げるようなことは絶対に考えるな。人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである

ある意味での人生の指南書。おすすめの伊坂作品のひとつとして、世代を問わず周りにもぜひお勧めしたい。

ありがとうございました。