著者 島本 理生
夫の両親と同居する塔子は、イケメンの夫と可愛い娘がいて姑とも仲がよく、恵まれた環境にいるはずだった。だが、かつての恋人との偶然の再会が塔子を目覚めさせてしまう。胸を突くような彼の問いかけに、仕舞い込んでいた不満や疑問がひとつ、またひとつと姿を現し、快楽の世界へも引き寄せられていく。上手くいかないのは、セックスだけだったのに――。『ナラタージュ』の著者が官能に挑んだ! 著者最高傑作。
~~~~~以下、感想。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
島本理生さんの小説でいえば、「2020年の恋人たち」以来の作品となる。そして、本作「Red」は、原作を読む前に妻夫木聡さんと夏帆さんが出演する映画を先に観ていた作品。それから気になり、ぜひ読んでみたいと探していた小説。
いつも行く書店には置いておらず”いつか読もうリスト”にストックしつつ3~4か月。偶然に立ち寄った別の書店にて発見し、即買い。読みかけの小説があったので、すぐにという訳ではなかったけど、いざ読み始めると一瞬で没入し、あっという間に読み終えてしまった。
ジャケットやあらすじから想像し、ただの不倫小説だ…と思うのは早計。もちろん俺もそのあたりの官能的な表現を期待しなかったのかと言われれば、すべて否定はできない。たしかに表現だけ見れば、いわゆるアダルトなシーンは数多くあり、その密度には圧倒される。しかしながら、登場人物、特に塔子の心情が絶妙に描かれているものだから、興奮するという感覚ではなく、息苦しいという感覚の方が当てはまる。
そしてこのRedという小説は、それぞれタイプの違う男性陣がストーリーを引き立たせる。イケメンで社会的地位もありお金持ちの家系だけど、いわゆる女心がまったく読めない塔子の夫の真。塔子が就職した会社の社員で、仕事はできるが女性関係が派手な小鷹。そして女子大生だった頃の塔子と不倫しており、再開後に再び塔子と関係を結ぶ鞍田。先に映画を観ていたこともあり、それぞれがリアルに頭のなかに出てきてしまい、余計に作品に引き込まれた。その意味では、これは双方で異なるラストシーンも楽しみにしながら「映画」→「小説」の順でいく方が良いのではないか。(あくまでも個人的見解)
最後に、作中の気になったセリフをいくつかピックアップ。
- 好きになってから抱き合うのだと思っていた。快感が先に来て、それによって身体から引きずり出される言葉だなんて知らなかった。
- どんなに過去に濃密な恋愛関係を築いた相手でも、離れて時間が経ってしまえば、よく似た双子くらいには遠くなる。
- あれは、お母さん、という名の二の腕だったのだと今になってしみじみと実感した。
- 心臓がまた少し、水分を失って固くなった気がした。
ありがとうございました。
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